4-3:ログアウトできないよ
バグとエラーで本来は起こらないシナリオが起こってしまっている。
あたしは目の前にいる強敵、アナザーワールドゴッドに怪盗サルン四世が混ざった敵を睨んでいる。
「自己修正プログラムが終わると普通にダメージを与えられるの?」
―― はい、ゲーム内ではベータ―版からですがボスキャラ扱いになります ――
あたしはナビさんにそれを聞いて考える。
このゲーム、マジカリングワールドは自由度が高いゲームだけど所ところでイベントが起こる。
前作なんかは個々のイベント以外にもにネットに接続されているからみんなで同時参加するイベントとかもあった。
当然今作も全員参加イベントとか有るだろう。
例えば緊急クエスト。
砂の街の緊急クエスト、死神倒して「聖なる宝石」を持ち帰るってのは皆で参加するイベントだった。
だからこの上級者エリアの砂の街ではそのイベントが終わらない限り他のクエストが受けられなくなっていた。
これはあたし一人ではなく、みんなも同じだったようだ。
「つまり、修復プログラムで直ればみんなで寄ってたかってこのアナザーワールドゴッドを討伐できるわけだ! このスタンピードを止められる、時間稼ぎするわよ!!」
めちゃくちゃ強いボスキャラになるけど、みんなでスタンピードを戦えば何とかなるだろう。
全部あたし一人でやるには流石に大変だ。
となると、攻撃を受けない様にしながら逃げ回らないと!
ぶんっ!
「うおっ! あぶなっ!」
あたしがどう逃げ回るか考えているとアナザーワールドゴッドがカマを振り回して襲って来た。
危うくその一撃を避けるけど、当たれば一発でHPが五千くらい持ってかれる攻撃、いくらあたしでもそう何発も喰らってはいられない。
今のあたしのHPは七万五千弱。
一回のヒットで五千くらい持っていかれるから後十五回喰らったら終わりだ。
「とにかく距離をとって、影分身!」
あたしは影分身をしながら距離をとる。
アナザーワールドゴッドは影分身に攻撃しながら周りも破壊し始める。
暴れまわっているアナザーワールドゴッドは建物を粉砕し、近くにいるNPCを倒しまるで台風のようだ。
「こいつがスタンピードのボスか! みんな行くぞ!!」
「「「おうっ!」」」
あっ!
あれは迷宮で出会った女性だらけの冒険者パーティー!
「今は逃げて!」
叫ぶあたしだったけど、あの冒険者パーティーは果敢にもアナザーワールドゴッドに突撃して瞬殺される。
ずばっ!
ずばっ!!
「がっ!」
「はうっ!」
「あっ!」
「ひゃんっ!」
四人とも一撃だった。
あたしは慌ててナビさんに聞く。
「まだ自己修復終わらないの!?」
―― 現在自己修復中です。領域内のデーターの変換が終わりました。こちらのゲーム内でのボスとして再構成をします ――
まだ自己修復終わらないのか!!
やられたパーティーの人たちは多分最後にセーブした所からやり直しになるだろうけど、一回死ぬと所持金半分になるシステムなんだよなぁ~。
絶対に倒せない相手に果敢に突っ込む勇気は賞賛するけど、あまりにも無謀すぎる。
まあ、鑑定もってないと相手の強さ分からないから仕方ないか。
「影分身!」
あたしは影分身をして分身でアナザーワールドゴッドひきつける。
とは言え、何処までこれが通用するか。
何度もアナザーワールドゴッドの前に現れてはやられるあたしの影分身。
しかし流石に相手もそれに気付き始めたようだ。
「変な所だけは知恵がまわる! 神舞!!」
時たま本体でちょっかい出さないと影分身を無視し始めるから厄介だ。
まだ攻撃受けても少しは余裕あるけど、神舞中に二発喰らった。
回避補正が入っているのに当たるとか、なんつ―攻撃力!
しかしあたしの献身的な攻撃のお陰で影分身にもまた反応し始めた。
「ナビさんまだ修正終わらないの!?」
―― 自己修復システム完了しました。スタンピードシナリオのボス、アナザーワールドゴッドが現れました。ボス戦を開始します ――
「よっしゃーっ! 行くぞ、特別スキル覇者、深淵なる者、天空の加護発動!!」
システム修復が終わればこちらのモノ!
このシナリオのボスとしてこいつを倒せばこの大混乱も終わる。
「喰らえ、『ジャッジメント』!」
あたしは手を掲げ神の裁き、「ジャッジメント」を使う。
途端に上空に魔法陣が現れそこから巨大な足が出て来る。
ハイヒールを履いた女性の足、その踵がアナザーワールドゴッドに炸裂する。
ごごごごごごごぉ
にょきっ!
ぶぎゅるぅううぅぅぅっ!!!!
『ホーっほっほっほっほ無駄無駄むぅ、ごぁあああぁぁっ!?』
今までノーダメージだった「ジャッジメント」が効いた!
怪盗サルン四世が高笑いをしようとしたところダメージが加わったので驚いている様だ。
アナザーワルドゴッドのHPが「ジャッジメントでしっかりと減っている。
「よっし、効いてる!」
ダメージに驚いたアナザーワールドゴッドはそれでも対戦者があたしと気付き、こちらに向かって攻撃をしてくる。
「『絶対防壁』!!」
ガンっ!!
今まで素通りだった攻撃がやっと防げるようになる。
それも一発で五千くらいHPを奪われるあの攻撃を!
「よぉしぃ、これでどんどん行けるわね! 今までやられたお返しよ、神舞!!」
鎌の攻撃を防ぎきってあたしは神舞を発動させる。
花びらが沢山舞い散るエフェクトが現れ、「魂喰らいの剣」を振り回しながら踊るかのように剣をアナザーワールドゴッドに叩き込む。
勿論相手もただやられるだけではなく鎌を振ってあたしを攻撃してくるけど、踊るかのようにその攻撃を紙一重によけながら更に攻撃を加える。
「攻撃も通じる、回避も出来る! いいぞ!!」
―― 発生シナリオのボス認定がされましたのでこちらのすべての技や攻撃は有効化されました。回避、防御も攻撃の認識が出来ましたので有効となりました ――
ナビさんがこんな時なのに状況説明をしてくれる。
でもこれで納得!
「よっしゃー! 喰らえ『異界の門』!!」
神舞が終わって距離をとったらアナザーワールドゴッドは魔法攻撃をしてくる。
大雨のような雷だけど「絶対防壁」のお陰で全くのノーダメージ。
だからあたしも大技「異界の門」を発動させる。
アナザーワールドゴッドの後ろに異界の門が現れ扉が開き無数の黒い手が出て来て奴を捕らえる。
そしてそのまま門の中に引き込んで扉が閉まる。
ぎぃいいいいぃ~
ばたんっ!
どがっ!
ばきっ!
ぼごっ!!
ごがっ!
扉の向こうからボコられる音がしてくる。
なんかいつもより多めにボコっている様だけど、しばらくすると扉が開いてアナザーワールドゴッドを吐き出す。
ぎぃいいいぃ~
ぺいっ!
どが~ん!
見ればアナザーワールドゴッドのHPがだいぶ減っている。
効いてる効いてる!
「何なんだ!」
「あいつがこのシナリオのボスかよ!?」
「すげぇ、なんて攻撃なんだ!!」
「見たことねーぞあんなの!!」
ぼっこっぼこにされたアナザーワールドゴッドとあたしの戦闘を他のプレーヤーも気付いて遠巻きに見ている。
どうやらスタンピードのモンスターたちはほとんど退治されたらしい。
後はこのボスだけか!
「よっし、仕上げだHPとMPほとんど使っちゃうけど全スキル、特別スキル解放、必殺『カーニバル』発動!!!!」
あたしの保有するHPとMPをほとんど使用する最終技、はっきり言ってこれで倒せない相手なんかいないだろう。
使ったら最後、いくらあたしでもしばらく動けなくなるだろうこの技はこの世界の全職業収得していないと使えないもので、職業ギルガメッシュだけの大技。
「カーニバル」が発動するとアナザーワールドゴッドの上下にでっかい魔法陣が現れる。
そしてそれが光ったと思うと魔法陣同士の間に光の柱が現れその中にアナザーワールドゴッドが捕らえられる。
更に次の瞬間、上下の魔法陣から光り輝く様々な職業の姿をしたキャラクターたちが一斉に飛び出しアナザーワールドゴッドに襲いかかる!
カッ!
どドドドドドドドドドドドドドドドドドドドぉぉぉぉっ!!!!
ボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコッ!!!!
「うっわぁ~、これ初めて使うけどえげつなぁ~」
もうね、光る柱の中に沢山の光り輝く英霊がぎゅうぎゅう詰めで盆踊りしてる状態。
まさしくカーニバル。
そしてその宴が終わると同時に光の柱は消えて上下にあった魔法陣も消える。
だがそこにはアナザーワールドゴッドがまだ立っていた!
『この私がらぁがあああああぁぁぁぁぁっ!!!!』
ぱーんっ!
断末魔をあげてアナザーワールドゴッドは粉々に砕けて消え去ってしまった。
それを見てあたしはその場に女の子座りしてしまう。
あれだけ有ったあたしのHPとMPが残り一づつしかない。
MPがゼロになると気絶状態になるので、ソロのあたしはその後モンスターにでも襲われて攻撃が通れば終わりである。
普通はパーティーの仲間が回復してくれたり宿とかに運び込まれて回復するのだけどあたしはソロだからそれは無い。
「ふう、何とか倒せた……」
急いでアイテムボックスを開いて回復ポーションを飲む。
最近はポーションなんか使う事無かったけどやっぱ持っててよかった回復ポーション。
少しだけでも回復しておけばHPは魔獣装甲のお陰で徐々に回復できる。
MPは宿にでも戻って一晩すれば回復するだろう。
―― スタンピードのボス、アナザーワールドゴッドを倒しました。経験値とレアアイテムが手に入ります ――
ナビさんの声がしてアナザーワールドゴッドが消えさった後にキラキラと光が集まってそこに盾が現れた。
あたしは立ち上がりそれを手に取る。
「これがレアアイテム?」
手に取りながら鑑定をすると、「暴食の盾」と表示される。
そしてその内容を確認すると……
「全ての攻撃を飲み込み、それを倍返しするぅ? 何このチート!!」
いや、盾としてこれって最強じゃん!
防ぐだけどころか倍返しとか。
すぐに装備してみると、何と形状が変化し今あたしの外観に合わせたような盾になった。
「へへへへへぇ~、苦労して倒した甲斐が有った。これであたしのキャラは更に強くなった!」
言いながらあたしは【空間移動】を使って宿に戻る。
幸いながらあたしが泊まっている宿は先ほどのスタンピードで破壊はされていなかった。
部屋に瞬間移動したらすぐにセーブしてからログアウトする。
「はぁ~、とりあえず一休みっと、ログアウト!」
お腹もすいて来たし、おトイレにも行きたい。
現実世界でも連続何時間もやっていたからね~。
さてと……
「あ、あれ?」
すぐにログアウトするはずなのにしない?
「えっと、ログアウト!」
宣言が弱かったのかと思い、もう一度ログアウト宣言をして見るけどいつまで経ってもログアウトしない。
―― システム障害が発生しているようです。現在一時的にログアウト出来なくなっています ――
「え”っ!?」
システム障害って、何それっ!?
「い、いつ直るのそれ?」
―― シナリオ変更とベータ版のボスキャラがシステムの構成に影響を及ぼし、自己修復プログラムがシナリオ領域を調整した結果システム自体に影響が出ました。現在問題の確認とその修正を行っています。システム障害修復するまでしばしお待ち下さい ――
「え”えええええええぇええええええぇぇぇぇぇっ!!!?」
あたしは思わず叫んでしまうのだった。
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