4-2:倒せない敵
バグのせいですでに終わっているはずの事に対してイベントが発生。
しかも強制クエストと言う訳であたしは泣く泣くそのクエストを受ける羽目になった。
「しっかし、怪盗サルン四世ってなによ?」
とりあえずその辺で情報を得る為に冒険者ギルドのNPCに話を聞く。
人間でないNPCには何故か簡単に声をかけられるというのは何故なのだろう?
そして聞きまわる事しばし、前作には無かったキャラクタ―のようだ。
「う~ん、聞きまわった感じだとただの盗賊と言うよりは義賊に近い? 人を殺めるような事はしないけど百の顔を持ち狙ったお宝を必ず盗み出す凄腕。しかし、既に『聖なる宝石』はオアシスに投げ込んであるというのに盗み出しただなんて一体……」
もしかしてあの緊急クエストって死神倒した分だけ「聖なる宝石」が出現するの?
まあ悩んでも仕方ない。
あたしはとりあえず砂の街のNPC衛兵さんに話を聞く。
ここ数日の間に冒険者以外の街の出入りはあるのかと。
すると冒険者以外の出入りは無いそうだ。
冒険者に変装して街を出る事は無いだろう。
何故ならこのマジカリングワールドで冒険者って言えばプレーヤー、つまりあたしと同じ現実世界の人々だ。
他の街からやって来るとか、クエストこなす為に動いているとかが普通で、その中にNPCのキャラが紛れる事は無い。
だってみんなパーティー組んでるもん。
NPCが単独で動けるわけないもんね。
……プレーヤーで無ければ。
門以外から街を抜け出すってのも出来ないだろうし、夜間は門が占められてしまうからね。
しかし問題だ。
自由度の効くこのマジカリングワールドであたしは既に「聖なる宝石」をオアシスに投げ込んだ。
本来はこれで問題解決となるだろうけど、バグが出て怪盗が出現するイベントに突入してしまった。
さて、そうすると怪盗サルン四世なんだけど……
「盗み出したというけど手元に『聖なる宝石』が無い状態なのかもしれないな……」
あたしはわざと人どうりの少ない場所を歩き回ってみる。
これは女の勘だけど、こういう時は「聖なる宝石」を持っていたあたしに怪盗サルン四世は接触してくるのではないだろうか?
「そこのお前さん、壺は要らんかね?」
はい、来ましたぁーっ!
壺売り何て怪しい。
どこぞの宗教じゃあるまいし。
あたしはその壺売りを見る。
砂の街の何処にでもいそうなおじさん、でもその眼光が普通じゃない。
あたしはゆっくりとそちらを見て言う。
「あなたが怪盗サルン四世ね?」
あたしがそう言うとその路上に座って店を開いている壺売りは笑い始める。
「ふははははははっ! 流石だ、私の正体に気付くとはさぞ名のある冒険者なのだろうな!」
そう言って立ち上がると頬に手を着けべりべりと顔の皮をはがし出す。
そして剥がし終わると同時にシルクハットにタキシード、黒いちょび髭の片目に丸眼鏡をはめたジェントルメンの姿になる。
「お初にお目にかかる。私は怪盗サルン四世。どうぞよろしく」
「特別スキル深淵なる者発動! 『異界の扉』!!」
あたしは優雅にお辞儀をしている怪盗サルン四世にいきなり特別スキル、深淵なる者を発動させ『異界の門』を開く。
すぐに真っ黒な手が伸び出して怪盗サルン四世を捕まえる。
そして「異界の門」の中に取り込み扉を閉める。
「さって、こう言う場合は戦闘とか逃げられるってのが定番だからまずは確保っと♪」
―― 普通は「聖なる宝石」の有無を確認するのが先では? ――
ナビさんがもっともな事を言うけど、あたしはそんな面倒な事はしない。
すぐに時別スキル深淵なる者を解除する。
すると同時に異界の門も消えてしまう。
前回はこれでアナザーワールドキングをこのゲーム世界から消し去った。
存在自体が消えたので経験値もアイテムも貰えなくなったけど、バグで攻撃してもダメージ与えられないのなら消し去るしかない。
結果その存在自体が消えさったのであたしは無事この砂の街に戻れた。
なので今回も面倒くさいのでサクッとその存在を消し去ってみた。
「これで存在自体が消えさったから緊急クエストも無くなるわよね?」
―― バグが消えましたが別の問題が発生してます。シナリオ自体が消えてしまいエラーが発生してます。サブプログラムに穴が開いてしまいストーリーモードの続行が難しくなってしまいました ――
「へっ?」
―― ベータ版アナザーワールドキングと怪盗サルーン四世のデーターが混同しました。自己修復プログラム起動。失敗しました。サブプログラムによる現状保持開始。アナザーワールドゴッドに怪盗サルーンのジョブが加算されここへ再構成されます ――
「え、ちょ、ちょっと待って、ここって街中だよ? 非戦闘地区だよ!?」
―― 適合シナリオ検索。ベータ版に街が魔物に襲われるシナリオがありました。適合率七十パーセント。プログラム崩壊を阻止する為に遺失したシナリオに本ベータ版のシナリオを適合。成功しました。これより市外戦を始めます ――
だぁーっ!
何それ、この砂の街で市街戦!?
まずい。
あのアナザーワールドキングってあたしのスキルでもギリギリだったのにそれがこんな街中で出現したら!!
―― 自己修復プログラムにも適合。アナザーワールドゴッド&怪盗サルン四世の混合体が出現します ――
ナビさんがそう言った途端、消えたはずの「異界の門」が現れる。
所々デジタル的な揺らぎを持ちながらもその門が開かれる。
『ホーっほっほっほっほっほっほっ! わた、わたしはサルーンぐろぼぁっ!!』
出てきたそれはアナザーワールドキングよりさらにおどろおどろしい格好をしたアナザーワールドゴッド!
そしてその顔の部分に下半身を埋め込んだ怪盗サルーン四世がいた。
『ホーっほっほっほっほっ! 【聖なるホウセキ】よこぐろぼぁっ!!』
もうね、人の言葉を再生しようとすると途中からアナザーワールドゴッドの叫び声になっちゃう。
所々まだデジタル的なゆがみがあるけど、大鎌を両手に握ったその姿は如何にもやばそう。
「うわっ、何だあれ!?」
「マジかよ、街中にモンスターだと!?」
「なにこれ、新しイベント?」
「ないわ~、何あれ?」
丁度近くをプレーヤーキャラが通りかかり、アナザーワールドゴッドを見ながらそんな事を言っている。
「あっ!」
あたしが危ないから逃げろと言いかけた時だった。
プレーヤーたちの目の前にウィンドウが開いて緊急事態宣言が発令される。
それは緊急クエスト同様、赤く点滅している。
ぶんっ!
ズバッ!!
「へっ?」
「なにこれ?」
「あっ!」
「お、おいっ!」
ぼろぼろ……
ぱーんっ!
アナザーワールドキングを見ていた冒険者パーティーはたったの一振りで体を半分にされてぼろぼろになって消えた。
後には「DEATH」の文字が四つ浮かんでいる。
そしてアラートが鳴り響き、先ほどのウィンドウがさらに激しく点滅を始める。
―― スタンピードのシナリオに突入しました。更に魔物が増加します ――
「ちょ、ちょ、ちょっとまってよっ!」
しかし警告のウィンドウが閉じると街の門から、空から、地面から一斉にモンスターが現れる。
そして大騒ぎして逃げ惑うNPCの皆さん。
うっわぁ~。
もしかしてこれあたしのせい?
シナリオプログラム消し去ったから自己修復で暴走が始まった?
これ他のプレーヤーさんにも迷惑かけちゃってる??
「まっずいなぁ~、まさかこんな事になるなんて…… でもこのままじゃマジで街が滅んじゃう。何とかしなきゃ!」
どうやら他のプレーヤーさんもこのスタンピートで市街戦が始まって各個モンスターと戦っている様だけど、このアナザーワールドゴッドは多分上級者でも倒せない。
となると、あたしが何とかしなきゃならない……
「特別スキル覇王、深淵なる者、天空の加護発動! いっくぞぉっ!!」
あたしは特別スキルを発動させる。
そしてすぐさま手を挙げアナザーワールドゴッドに対して攻撃を始める。
「神の裁き、『ジャッジメント』!!」
ぶんっ!
にょきっ、ぶぎゅるっ!!
上に魔法陣が現れてそこからデカい足が落ちて来る。
それもハイヒールを履いた女性の足。
そのハイヒールの踵は見事にアナザーワールドゴッドに直撃する!
『ホーっほっほっほっほっほっほっ! 無駄無駄無駄ぁごらおぼがぁ!!』
うわぁ、人語喋れるようになってあたしの攻撃に対して余裕ぶっている!
なんかむかつくなあれ。
しかし、ジャッジメントがほとんど効いていない。
アナザーワールドゴッドの上に表示されているHPは全く減っていない。
このジャッジメントの直撃であれかよ。
「はぁっ!! 神舞!!」
しかし前回のアナザーワールドキングでこの技は効いたはず、これだけの至近距離でこの技を喰らえばダメージだって!
漸、漸漸漸!
「うらぁ~っ! 往生せいヤァっ!!」
あたしはアナザーワールドゴッドに連続攻撃を食らわせる。
この技に上乗せして「魂喰らいの剣」による効果で大ダメージを与えられるはずだった。
漸っ!
「どうだッ!?」
―― アナザーワールドゴッド及び怪盗サルーン四世へのダメージが無効化されました。データーが欠如した為修正プログラムを起動します ――
「へっ?」
ずばっ!
ナビさんのその言葉にあたしは思わず驚き変な声を出す。
ダメージ無効化って、それじゃぁいくら攻撃したってダメって事じゃん!
しかしアッチの攻撃はあたしに当たってダメージを加える。
「げっ! 一発喰らっただけで五千近くHPが削られた!? これ普通のキャラじゃ即死じゃん!!」
それに「魂喰らいの剣」を使っても相手からHPとMPが吸い取れていない様だ。
まあ、少しずつだけど「魔獣装甲」のお陰でHPは回復始めているけど、このままじゃ……
「よっし、前回と同様に消し去ってくれる、『異界の門』!!」
あたしはアナザーワールドキングや怪盗サルン四世を消し去った「異界の門」を発動させる。
途端に目の前に異界の門が現れ、扉が開き黒い手がたくさん伸び出てアナザーワールドゴッドを捕らえる。
そしてアナザーワルドゴッドはそれに拘束されて扉の向こうへ運ばれる。
ぎぃ~
ばたんっ!
「これで特別スキル深淵なる者を解除すれば!」
急いで特別スキル深淵なる者を解除すると「異界の門」もすぐに消える。
前回はこれでこちらの世界にその存在がいなくなって事無きを得たけど……
びきっ……
びきびきびき……
異界の門があった場所の空間にひび割れが出来る。
それはどんどん広がっていき、やがてガラスが割れるかのような音がして空間事割れ落ちる。
ガッシャーンっ!!
「げっ!」
暗い空間から二本のカマを持ったアナザーワールドゴッドが姿を現す。
―― どうやら自己修復プログラムが走っているので強制的にこちらに戻されたようです ――
「戻さなくていいのっ!!」
あたしは思わずそうナビさんに突っこむも、アナザーワールドゴッドの攻撃をまた喰らってしまった。
ずばっ、ずばっ!!
「くっ!」
うっわー、一気にまた一万HP削られたぁっ!
「魔獣装甲」の回復じゃ全然追いつかなくなる!!
「この、あたしを守れ『絶対防壁』!!」
キンっ!
スキル天空の加護の「絶対防壁」。
魔法攻撃は勿論、物理攻撃だって通さない鉄壁の防御!
これで自己修復プログラムでダメージが通るようになりさえすれば!!
ずばっ、ずばっ!!
「痛たぁっ!?」
しかし何とその攻撃は「絶対防壁」をすり抜けてあたしにダメージを与えて来る。
切られた場所に疑似痛覚が発生して軽くたたかれたような衝撃が走る。
まったく痛くは無いのだけど、大丈夫と思った所へこの衝撃には驚かされる。
「こんにゃろぉ~」
あたしはアナザーワールドゴッドの野郎を睨みつけるのだった。
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