第四章:これってバグ?

4-1:なんかおかしい


 王家の墓で死神を倒し、「聖なる宝石」を持ってあたしは砂の街に戻っていた。



 ―― クエスト完了です。オアシスに「聖なる宝石」を投げ込みますか? ――


 宿に【空間転移】で戻ったあたしにナビさんは問いかけて来る。

 

「いや、まずはギルドに行って報告でしょう? 一応緊急クエストなんだし。それに報告しないでオアシスに『聖なる宝石』を投げ込んだら報酬がもらえないかもしれないじゃん!」


 お金やアイテムは潤沢にあるけど、それはそれ、これはこれ。

 クエストの対価はちゃんともらわなきゃいけない。


 なので私は早速冒険者ギルドに行くけど、宿を出て驚く。

 街並みに人があふれ皆さん生き生きとしていらっしゃる。



「あ、あれ?」



 死神倒して「聖なる宝石」を持ち帰った他の冒険者がいたのかな?

 いやいや、あれだけ強かったボスキャラ、そうそう簡単に倒せるとは思えない。

 ダンジョンで出会った冒険者たちは皆苦戦していたもんな。


 首をかしげながら冒険者ギルドに行くと、ギルド嬢たちも元の元気な姿になっていた。

 そしてギルド内に足を踏み入れた瞬間、NPCの皆さんが寄って来る。



「ありがとうございます、死神を倒してくれて!」


「これでこの街は救われます!」


「流石俺の見込んだ冒険者だ!」



 いや、途中死にそうなほど痩せこけていたNPCの皆さんが血色良くつやつや肌であたしに寄って来てそう言われても違和感しかない。

 そしてあの緊急クエストを話に来たギルド嬢もやって来た。



「ありがとうございます、あなたのお陰でこの街は救われました。ギルドを代表してお礼を申し上げます」



 そう言って目の前でぺこりとお辞儀をされる。

 

 うん、それはいいんだけど前回会った時は頬はコケて目はうつろだったのに今は冒険者のアイドルよろしくちゃんと美少女に戻っている。

 ギャップが凄いというか何と言うか。

 あたしがそんな事を考えていると目の前にクエスト達成のウィンドウが開く。

 そして「聖なる宝石」を渡すかどうか表示される。


 そう言えばナビさんもこの宝石をオアシスに投げ込むかどうか聞いて来たよな?

 ここでギルドに手渡せばクエスト自体は終わりになるだろうけど、なんか引っかかる。


「うーん、ここで素直に手渡してクエスト完了でいいのだろうか? ナビさんはあたしがオアシスにこの『聖なる宝石』を投げ込むかどうか聞いて来たしな……」


 両手を差し出しニコニコ顔の受付嬢の顔を見る。

 ゲーム内の住人、NPCだからその表情を見ただけでは何を考えているかは分からない。

 それにこのマジカリングワールドは自由度が高いゲームだ。

 

 だったら……


「よっし、これはあたしがオアシスに投げ込む!」


 そう言ってすぐに踵を返して冒険者ギルドを出る。

 後ろでなんか騒いでいるみたいだけど完全に無視してオアシスにまで行く。

 街の中央にあるオアシスまで来てあたしはその全景を一望する。


「さてと、早速これをオアシスに投げ込んでっと!」



 ひょい、ぽーいっ!


 どぼ~んっ!



 聖なる宝石を投げ込むと一瞬オアシスが光ってウィンドウが表示される。

 あたしはそれを読んでみる。 


「なになに、呪いは解かれ、オアシスは浄化された? ふむふむ、これで完全にクエスト終了ね」


 ―― 街の呪いを解くクエストが完了しました。経験値と報酬が入りました ――


 ナビさんのその言葉どうり経験値が入るのだけど、あたしの経験値は既に99999になっている。

 そして所持金も同じく99999ゴールド……


「なんか入って来ても既に意味が無いわね…… HPもMPも勝手に回復するし、お金だって使いきれないほどあるし」


 でもまあこれは気分の問題。

 クエストもクリアーしたし、これで砂の街は元どうりだよね?



 あたしがそう思っていると、街が夜モードになって本日が終わる。

 それはそれで良いのだけど、冒険者ギルドに戻って情報収取でもしようとすると冒険者ギルドが大騒ぎになっている。


 何だろうと思い中に入ると、早速NPCさんたちが寄って来る。



「大変だぁ! 『聖なる宝石』が盗まれたぁ!!」


「あれが無いとオアシスの呪いが解けない!」


「大怪盗、サルン四世が出たぞぉ!!」


 

 口々にそう言ってあたしに寄ってたかる。

 いやちょっと待て、「聖なる宝石」はあたしがオアシスに投げ込んだのだけど……


 ―― どうやらバグが発生しているようです。オアシスの呪いは解除されましたが、『聖なる宝石』は盗難に遭ったようです。現在砂の街の呪いを説く為には『聖なる宝石』を怪盗サルン四世から取り戻す必要があります ――


「ちょっとマテぇっ! オアシスの呪いは解除されてるのに、怪盗から『聖なる宝石』を取り戻すって何っ!?」


 どう言う事だろう?

 クエストが勝手に暴走している?

 と言うか、選択肢でナビさんが聞いて来た自分でオアシスに「聖なる宝石」をドボンしちゃまずかったの?


「いや、さっきナビさんがバグって言ってた、ナビさん確認なんだけど『聖なる宝石』でオアシスの呪いは解除されているのよね?」


 ―― はい、先ほどの行為でオアシスの呪いは解除されています ――


「だとすると、その怪盗とかを捕まえて『聖なる宝石』を取り戻すとなるとその『聖なる宝石』って二個存在するって事?」


 ―― 現在怪盗に盗まれたという設定になっています。『聖なる宝石』が二個あるかどうかは現在不明です ――


 うーん、これって完全にバグなんだろうなぁ~。

 どうしよう、無視して他のクエスト引き受けようかな?



 あたしがそう悩んでいると、またまたあの受付嬢がやって来る。


「お願いします、街の呪いを解くために奪われた『聖なる宝石』を取り戻してください!」


 そう言い終わると同時にまた目の前にウィンドウが開く。

 そしてそこに書かれていたのは緊急クエストだった!


「また緊急クエストかーいぃぃぃっ!」


 思わずびしっと手の甲を受付嬢に当てて突っ込みを入れる。

 もうさ、完全なるバグだよこれって!!



 一応確認で他のクエストが張り出されている掲示板を見るとやっぱりまた一時停止になっている。



「くぅ~っ! 分かったわよ、やりゃぁいいんでしょ、やりゃぁっ!」




 あたしはそう言ってウィンドウの画面のクエストを受けるをぽちっとなとするのだった。

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