2-4:ごめんなさい


「はいこれでおしまいっと!」


 漸っ!


『ぎえぇええええぇぇぇぇえぇっ!』 



 あたしは「真実の眼鏡」というアイテムのお陰で罠という罠、擬態しているモンスターをことごとく解除したり先制攻撃で倒したりしていた。


 そうそう、壁に八つ当たりした時に倒したのはデーモンカメレオンってモンスターらしく、弱っていると攻撃してくる厄介なやつだった。

 でもこいつは倒すと経験値が高く、「真実の眼鏡」のお陰で今までに何度か倒しまくっていた。

 おかげで経験値がガッポガッポと入って来て、天性騎士がすでにレベル50まで到達している。


「このまま行けばダンジョン半ばで天性騎士カンストできそうだね。そうすればいよいよ神性騎士にジョブチェンジできる。騎士系の最強キャラに成れるね~♪」


 系統図を見ると騎士系はそれが最強となる。

 そうなればもうほとんどの敵に対処できるだろう。


「んふっふっふっふっ~♪ そうしたら冒険者辞めてどこかの街でクリエイター職を極めてみるのも面白いかもね~」


 このマジカリングワールドは単に冒険者だけでなく、街に滞在してアイテムづくりに精を出したり、研究に精を出して錬金術を極めてみるのも面白い。

 ただ、冒険者で何時でも素材を取りに行けるくらいに強く成っておくとそう言った職業をやった時に自前で素材集めに行けるから欲しいときに欲しい素材がすぐに手に入れられる。


 もし普通にプレイするなら市場に行って買ったり、冒険者ギルドに依頼を出したりしなきゃならないからちょっと面倒だ。


 と、そんな将来の楽しみを考えていると大きな扉が目の前にある。



「えーと、オートマッピングで見ると……」


 どうやら地下三階のボス部屋のようだ。

 この王家の墓は各層に中ボスがいてそいつを倒さないと下の階に行けない。


 あたしみたいにランダムワープ喰らうと普通は即死コースが多いけど、系統違いの職業を持ってるあたしは単体でそこそこのパーティー並みの力を持っている。

 しかも今回のマジカリングワールドは経験値が分配方式。

 ソロでやっているとその経験値全てが一人に入って来る。


 おかげでどんどん成長が出来る。



「間違いないな、これって三階層のボス部屋だ。それじゃぁ……」


 あたしは扉に手を着けて軽く押すと簡単に扉が開いて戦いの音が……


「げっ!」


 見ればどこかのパーティーが只今三階層のボスと戦闘中でした。


 まっずぅ~。

 このマジカリングワールド、自由度が高いからボス戦で他のパーティーが乱入する事も出来るけど、ボスを倒した時にその分の経験値が分散されたりドロップアイテムの所有権でもめたりもするらしい。


「これって一度入ったら戦闘終わるまで出られないし、セーブも出来ない…… 仕方ない、邪魔にならない様に遠くで見学しているか」


 タイミングが悪いよねぇ~。

 この階のボスは巨大なデーモンフンコロガシ。

 虫らしく外装が固いようで、戦っているパーティーの攻撃があまり効いていない。

  

 見ていると何度かフンを転がし突撃してきて、攻撃をある程度喰らうと範囲魔法で雷攻撃してくるみたい。


「うーんパターンはある程度決まっているみたいだけど、ベヒモスの時のように確実じゃないみたいだな~」


 皆さんの奮闘を見ながらあたしだったらどう戦うかを考えてみる。

 

 まずあのフンコロガシアタックは真面目に受ける必要はない。

 影分身あたりで影に攻撃を集中させてその間に斬鉄波でも食らわせれば良いかな?

 そして魔法攻撃だけど、確か大賢者で魔法を阻害するやつがあったからそれを使えば雷は喰らわなくても済みそう。

 あ、でも天性騎士だから雷系の魔法には耐性が強いから、受けてもそれほど問題にならないかな?

 魔獣装甲もあるからHP勝手に回復してくれるし。

 それとやっぱりベヒモスの時と同じく魔法を使った後に少しフリーズするみたい。

 そうするとそこへスキル「剣舞」で大ダメージを食らわせれば……


 そんな事を考えているけど、目の前の戦いはに十分すぎても終わらない。

 戦っているパーティーもアイテム使ったりして頑張っている。


「……長いな」


 あたしはデーモンフンコロガシを鑑定してみる。

 するとこいつって神の加護とか言うのが有ってダメージ喰らっても一定の時間すると自動回復をしている!?



「これって……」


 対するあのパーティーの面々を見るとHPとか半分、MPだってもうすぐ尽きるじゃないの!?


 このままじゃジリ貧でデーモンフンコロガシにやられちゃうよ?

 どうしようかなぁ。

 あのパーティーは個々のレベルは高いけど、今のボスモンスターとの相性が悪い。

 

 だからこのままじゃやられる。



「うーん、どうしようかなぁ~」

 

 見ているとどんどんHPが削られていく。

 仕方ない。



「影分身!」



 あたしは影分身を使ってデーモンフンコロガシの前にいきなり現れる。

 それにもちろん驚くパーティーの皆さん。



「下がって」


 それだけ言ってデーモンフンコロガシの攻撃を受けるけどその私はやられてすぐに姿を消す。

 でもその後ろから本体のあたしが現れて斬鉄波を食らわせる。


 がら空きの後ろ、というか頭にもろに攻撃を喰らってデーモンフンコロガシがあたしを敵認定する。

 その間にあのパーティーの人たちは下がって回復をするけど、MPもアイテムも底をついたようだ。

 

 デーモンフンコロガシはこっちに引き寄せられているからあっちは大丈夫だろう。

 あたしはすぐに影分身をしてデーモンフンコロガシを引き付ける。



 どどどどどどどっ! 



 フンコロガシアタックを影分身のあたしが喰らうけど残念ながらそっちは影です。

 すぐにフンコロガシの懐に影移動をして現れ剣王スキル、剣舞を使う。


「剣舞!!」


 途端にあたしの周りに桜の花びらのようなエフェクトが舞い、連続で踊るかのように剣を振るう。

 攻撃補正がかかったそれは斬鉄波並みの攻撃力を持ち、連続でデーモンフンコロガシに踊るかのように攻撃を加える。

 勿論デーモンフンコロガシも攻撃をしてくるけど、「剣舞」の回避補正が効いているから躍るかのようにその攻撃を紙一重でかわしてゆく。



 漸っ!

 漸漸っ!!



 何度も攻撃を喰らって流石にデーモンフンコロガシのHPも急激に減る。


 そしてスキル効果が切れてあたしも安全圏まで一気に下がると今度はデーモンフンコロガシが魔法陣を足元に光らせる。

 魔法攻撃をするつもりだ。

 しかしそうはさせない。


「【魔術阻害】!」


 大賢者の魔法を発動させる。

 すると足元に輝いていた魔法陣が光を失い消える。

 だが魔法を使おうとしたターン、デーモンフンコロガシは暫しの間は動けなくなる。


 チャーンス!


「剣舞!!」


 あたしはまた剣王スキルの剣舞を使う。


 またまたあたしの周りに桜の花びらのようなエフェクトが舞い、連続で踊るかのように剣を振るう。

 それはどんどんとデーモンフンコロガシのHPを削って行きやがて断末魔が聞こえる。



『キェエエエエエエェェェェっ!』



 漸っ!



 剣舞の効果が終わり、デーモンフンコロガシから安全為距離をとるとデーモンフンコロガシが倒れてバラバラになって消えて行く。


 ふう、倒せたか。

 ちょっときついかなって思ったけど意外と簡単に倒せた。


 そう思ったらあたしに大量の経験値が入って来た。

 そしてレアアイテムがドロップされる。


 あたしはそれを拾い上げ向こうでこちらの様子を見ているパーティーにそれを放り投げる。

 だってこれって砂のシミターだから。

 その気になればいつでも作れるもんね。



「(ボス横取りしちゃって経験値貰っちゃったからせめてこれだけは)あげる」



 あたしはそう言って砂のシミターを放り投げ、現れた階下に行く扉に向かう。



「い、いいのかよ?」


「ソロであのボスモンスター倒すだなんて……」


「なぁ、あんたは一体」


「これ、レアアイテムじゃないか!」



 なんか一度に色々聞かれてるぅ!

 どうしよう、なんて答えたらいいのだろう!?

 

 あたしはそんな事をあれやこれやと思案しているけど、振り返るならなんか言わなきゃいけない。

 しばし沈黙。

 

 しかしそんなに長くはもたない。

 まだ考えがまとまってないけど、あたしは振り返りながら言う。



「ごめん(勝手にボス横取りして経験値独り占めして)、悪いけど(邪魔をもうしないから)先に行く(ね)」 



 そう言うあたしの顔を彼らはまじまじと見ている。

 なんか変な事言った、あたし?



「そ、そうだよな、あんたほどの強さなら」


「すっげーよな、ソロで!」


「なんか、かっこいいぃっ!」



 うおっ!?

 なんかまた一度にいろいろ言われるぅっ!

 駄目だ、限界!

 そんなに一度にしゃべりかけられたら対応なんて出来ない!!




 あたしはその場でくるりと踵を返して逃げるかのように階下に行く扉を開き第四層へと向かうのだった。

   

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る