2-3:ついでだから


「くっそぉ~逃げられたぁ!!」


 

 あたしの経験値、メタルコボルとはその逃げ足で壁に穴を掘って逃げていった。

 今回はまたバグで変な所に飛ばされるのが嫌で穴にまで入って追いかけなかったけど、これだけステータス上げてるのに逃げられた。

 悔しくて思わずその辺の壁に剣で八つ当たりする。



 ずばっ!


『げげげげげげげぇっ!』



 適当にその辺の壁に切り込み入れたらなんか変な声がしてモンスターらしき奴を倒したようだ。



「あ、あれ?」


 ―― 聖騎士のレベルが100に到達しました。上級職にジョブチェンジしますか? ――



 どうやらちょうど何だか分からないやつを倒したので経験値が入ってレベルが上がったようだ。

 壁か何かに擬態してあたしを襲うとでもしていたのだろうか?


 あたしは剣を鞘に納め、系統図を表示させる。


「えっと、聖騎士の上級職はっと……」


 聖騎士の上級職は天性騎士と言うもので、天使の加護を受けられる騎士となるらしい。

 特に悪魔系の攻撃や呪いに強いらしい。

 

 なんかこのダンジョンでもの凄く有利なような……


「そうか、前の時は聖騎士カンストしないでクリアーしたからカンスト後の上級職知らなかった。ん? 天性騎士の上は神性騎士?? これって初めて見るな」


 騎士系統を極めるとどうやらこの神性騎士が最後のようだ。

 まあそこまではまたレベル上げするので大変だけど、天性騎士から「やり直しシステム」だと……



「剣王? ソードマスターか! これって斬撃の超強力な技が使えたはず! よっし、まずは天性騎士にジョブチェンジよ!!」


 ―― 了解しました。聖騎士から天性騎士にジョブチェンジします ――


 ナビさんがそう言ってまたまた足元に魔法陣が現れる。

 全体が光に包まれて体を覆うと光が増し、パーンとはじけて姿が変わった。


 そこにはちょっと生物的なのは残るけど、白銀の鎧に身を包み、背中に天使の羽、頭天使の輪っかが標準装備されたあたしの姿が有ったのだった。


「おおぉ~、これが上級職天性騎士かぁ~、なんか天使の騎士みたい」


 これ結構かっこいい。

 中学生だったらちょっと中二病が入った台詞言いそう。


「さてと、それじゃ剣王にいったん戻ってと……」


 あたしは「やり直しシステム」を使って「剣王」に戻ってみる。

 すぐにまた足元に魔法陣が浮かび上がって今度は頭のってっぺんから下へ向かって変化が起こる。


 ―― 剣王にやり直しシステムで戻りました ――


「これが剣王か、女性キャラだとなんか剣姫って感じかな?」


 薄手の羽衣のような姿に要所要所だけあの鎧がくっついていて、両手に剣を持った姿になった。

 これはこれでなんかいいなぁ。

 

 ウィンドウを開いて確認すると、スキル剣舞と言うのが手に入っていた。

 説明を読むと斬鉄波並みに強い攻撃を一度に何回も当てながら、その間物理攻撃は回避補正が高くなりほぼ当たらないと言う技のようだ。


「これってすごい技だね、斬鉄波並みの攻撃が一度に数回だなんて、そしたらベヒモス一発じゃん!」


 流石上級職。

 でもそのさらに上の天性騎士もあるのだからあたしって結構強くなったんじゃないだろうか?


 さっさとまた天性騎士に戻ってウィンドウを開く。


「あ、賢者もその気になれば大賢者に成れるのか…… んじゃ、そっちもジョブチェンジしておこうっと!」


 魔法系の方も大賢者に成れるようだ。

 大幅に魔力も上がりそして威力も増す。


 インテリジェンスも上がったから、なんか忍者が上級職「お頭忍者」に成れるようだ。

 そっちもしっかりと上級職「お頭忍者」になっておく。



「おおっ! なんかスキルがいっぱい増えた!!」



 なんか「お頭忍者」になったとたん、使えるスキルが一気に増えた。

 特にスキル「変装」なんてのは自分が対象のレベル以上ならそのモンスターにも変装が出来てその能力も使えるとか。


 チートやん。

 これめっちゃチートスキルやん!


 例えばほとんど最後のボスにフェニックスとかがいる。

 もしフェニックスよりレベルが高ければフェニックスに変装できるってことだよね?

 フェニックスになれば滅んでもすぐに復活するってのがあるから、事実上死なない無敵モンスターじゃん!


「いいぞうぉ~無敵な未来が見えて来た!!」


 そう喜んでいるあたしにナビから警告が入る。



 ―― 血糖値の低下を感知しました。 安全の為セーブをして栄養補給をする事をお勧めします ――



 ありゃ? 

 ついぞ楽しくて結構時間が経ってたか。

 そう言えばそろそろ色々ヤバくなってきたなぁ~。


「じゃあ空間転移! 宿屋に戻ってっと」


 あたしはすぐに宿屋の自分お部屋に戻る。

 すると自動セーブをしてくれる。


「うっしと、とりあえずセーブも出来たし休憩かな?」


 そう言いながら一旦ログアウトをするあたし立たのだ。

 


 * * * * *



「誰もが寝静まる深夜二時~」



 あたしはそう言いながら静かに下界へとやって来た。

 ログアウトして周りを見ると部屋は真っ暗。

 明かりをつけて時計を見たらもう深夜二時だった。


 そっと部屋の扉を開けるけど流石にご飯は下げられてしまったようだ。

 お腹すいても今から親を起こすわけにもいかない。

 なので仕方なくそっと下界へと降りる。


「うおっと、トイレ、トイレっと……」


 ついでにおトイレも行っておく。

 すっきりしてから手を洗って台所へ。


「うーん流石にあたしの分のご飯は無くなっているか。仕方ない……」


 あたしは扉を開けてごそごそとカップラーメンを取り出す。

 この戸棚には常備でカップ麺が有るので、後はお湯なんだけど……


「ポットのお湯まだ大丈夫かな?」


 かぽっとポットを開けてみるとホワンと湯気が立つ。

 ややぬるいかもしれないけどその分時間を置けばカップ麺は出来るだろう。

 あたしはかやくなどを入れてカップ麺にお湯を注ぎ後入れのスープの小袋を蓋の上に置いてお箸を探し始める。


「不思議と深夜に食べるカップ麺って美味しいのよね~」


 そんな事を言いながらごそごそと割り箸を探し出す。

 あ、これってお弁当屋さんの割りばしだ。

 紙の袋に入った割りばしには楊枝も入っている。


 紙袋を破って割りばしと楊枝を取り出しながらカップ麺の様子を見る。


「ありゃ? やっぱりまだ出来てない。お湯の温度が低かったかな?」


 言いながらふたを完全に取って電子レンジに入れて温める。

 しばし待って「チンっ!」って音が鳴ったら引っ張り出す。


「おぶっ! 湯気が凄い、あちちちちちぃ」


 暖め過ぎたかかもしんない。

 あたしはそれを鍋掴みで取り出し後入れスープの素を入れて掻き回す。


「出来た、いただきま~す」



 ふーふー


 ずるずる、もごもご



「うん美味しい~♪」


 空腹に深夜のラーメン、これが美味しくないはずはない。


 ほんとこのマジカリングワールドは楽しい。

 全世界でフルダイブのゲームが流行るのも頷ける。



「これ、学校不登校になる原因にもなっちゃうよね~」


 自分の事を棚に上げたままそんな事を言ってラーメンを完食する。

 冷蔵庫を開けてコーラを奪取し、また二階へ。


 自分の部屋に戻ってから気付く。


「やっぱ暑いわあたしの部屋……」


 ゲームを快適にするためにはもっと良い環境をあたしは要求する! 

 なので冷えたコーラを飲んでから窓を少し開けて、扇風機の弱を付けたまま、またゲーム機をかぶって横になる。



「さてと、それじゃぁ続き始めますか♪」



 あたしはそう言ってまたゲームの世界へと入って行くのだった。 

 


 * * *



 宿屋の所でセーブしてログアウトしたのでそこからゲームがスタートした。


 

「さてと、そうしたらまた王家の墓に行かなきゃね~」


 そう言ってあたしは【空間移動】ワープの魔法を使って王家の墓のメタルコボルトに逃げられた場所へまで行く。

 一週間歩きの移動を考えるとこれがどれだけ楽かよくわかる。

 唯一欠点は行った事の無い場所へは行けないってことかな?


「さてと、そうしたらまた探索開始っと」


 そう言いながら魔法の明かりを灯しダンジョンを進む。

 もうたいまつとかいらないので便利な事。

 それに魔法の明かりはたいまつよりずっと先まで見えるからかなり視界も良好となる。


 時たまモンスターが出るけど、前回のデーモンアネクラあたりも今の天性騎士と大賢者、お頭忍者の職業のお陰でいともあっさりと倒せるのでどんどん奥へと進む。



「確か、王家の墓って地下十階まであったよね? ここってまだ一階だから先は長いなぁ~」


 言いながら今度はデーモンスフィンクスを倒す。

 この辺のモンスターもさっくりと倒せるからどんどん進む。


 と、なんかまたスキルに反応が……


「ん~、このパターンはモンスターに囲まれたな? 何処のパーティーか知らないけど、どうしようかな?」


 出来れば可能な限り関わり合いたくない。

 前の女性だけのパーティーの時にもやらかしちゃったし、あたしには急な社交辞令は無理だ。

 

 ここはその気配の方を避けて……



「あ”っ」



 回れ右したらメタルコボルトがこっちを見ていた。

 一匹だけどこ逃げる様子もなくこちらを見ている。


「ここであったが百年目! 覚悟!!」


 剣を引き抜き一気にメタルコボルトに迫るあたし。

 それでもメタルコボルトは動かない?



「とったぁっ!!」



 そう言って踏み込むと同時に剣を振り下ろすと足に変な感触が?



 ぶみょ~んッ!!



「なっ、これは!?」


 ―― トラップ、ランダムワープのようです。目の前のメタルコボルトはどうやら幻影のようですね ――



 冷静に状況判断するナビさん。

 ナビさんの言う通り動かなかったメタルコボルトはその姿が歪んで消えていった。


「くっそぉーっ!」


 あたしのその叫びを最後にあたしはランダムワープでどこかへ飛ばされるのだった。



 * * *



 ぶんっ!



「っと、最悪壁にのめり込んで即死は無かったか…… ここって何処なんだろう?」


 飛ばされたところはやはりダンジョンの中だったけど、なんか壁の色とかが濃くなっている。

 となると、ここって下の階層かな?


 ―― ランダムワープで地下三階に飛ばされました ――


「三階! 一気に難易度が上がるなぁ」


 確か王家の墓って地下三階あたりから前作ではかなりきつくなってきたはず。

 出てくるモンスターも結構強くなるし、何よりこの辺から宝箱とかにミミックが混じり始める。


 宝箱見つけて喜んで開けようとするとモンスターで最初の一撃が絶対に当たるって仕様だった。



「うーん、仕方ない、とりあえず先に進んで『聖なる宝石』を見つけなきゃね~」


 あたしはそうつぶやいて歩き出す。

 そしてしばらく歩くと通路に部屋がいくつかあった。


「あ~確かこの辺から宝箱出るんだったよね。ミミック込みの宝箱が」


 しかしこの王家の墓、結構いろいろアイテムが手に入るので前作でもお兄ちゃんと何度も挑んだものだ。

 二人だけのパーティーだったからたまに死んじゃうけど、ここで前作はレベル上げしたんだよなぁ。


 あたしは過去の記憶をもとに各部屋に足を踏み入れてみる。

 最初の部屋は何も無くて、次の部屋は宝箱が有った。


「前って確かここがミミックだったような…… そうだ、先制攻撃してみよう!」


 あたしは【拘束魔法】で宝箱を縛り上げ、剣を抜いて攻撃してみる。

 すると普通に攻撃が出来て箱が壊れる。


「ありゃ? もしかして本物の宝箱??」


 魔法を解除して中を見ると宝石が入っていた。

 それを拾い上げ鑑定してみると、ただの宝石のようだった。


「ま、お金になるから良いか~。 じゃ次の部屋」


 私は扉の罠を「お頭忍者」スキルで解除したり、宝箱を拘束してモンスターかどうか確認しながらアイテムをゲットしていたりすると……


『げっ、げっ!!』


「出たか、ミミック!」


 【拘束魔法】で縛り上げたらミミックだった。

 やっぱり遠距離で魔法を使って縛り上げて正解。

 近くまで行っても動けないミミックは「げっ、げっ」って唸ってる。


「不意打ちでやられると結構ダメージがあるけどこうして捕まえておけば問題無しっと。それじゃぁあたしの経験値に成れ!」



 ざくっ!



『ぎえぇえええええぇぇぇぇぇ!』



 ご丁寧に断末魔を挙げてからっミックはバラバラになって消えた。

 そしてドロップアイテムが現れる。


 それは眼鏡だった。


「なんだこれ? 前作には無かったよね?」


 言いながら大賢者スキルで鑑定してみる。

 すると「真実の眼鏡」とか出て来てその内容が表示される。


 曰く、擬態しているミミックや設置されている罠がこの眼鏡をかけていると見つける事が出来ると言う。

 


「おおぉ~これって便利じゃん!」


 あたしはすぐにそれを装備してみると、なんかどこかの秘書みたいな感じになる。

 ちょっと知性的で冷たくきつめな感じ。

 その手の人にはウケそうだ。


「さてと、それじゃこのアイテムの力を溜めさせてもらいましょうか♪」




 そう言いながらあたしは更にダンジョンの奥を目指すのだった。


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