2-2:話しかけないでもらえます

 

 とりあえず回復ポーションとか何かとかいろいろ買いこんでみた。

 ついでに要らないアイテムも売りさばき、お金に変える。


「うーん、宿屋に入って休むとHPとMPが全快するってのは好いけど、何このシステム?」


 このゲーム宿屋に入ってベッドに横になるとピロリ~んって音が鳴って一晩寝た事になる。

 そしてHPやMPが完全回復するのだけど、ベッドに横になる前に新しく「夜のお楽しみ」コマンドなんてのがある。

 

 一瞬そっちか!? とか思ったけど、やってみたらカジノ行ったり酒場で宴会したり飲み比べイベントしたりする奴だった。



 ……誰よ、今エロいこと考えたの。

 そりゃぁ、あたしも一瞬考えたけど流石にゲーム内で過度なお色気があるはず無い。



 まあそんな宿屋なんだけど新システム「拠点」ってのを使うとお金さえ払えば長期でその宿屋を拠点に出来てアイテムを置いておいたり、セーブとかも勝手にしてくれる機能が有ったりもする。

 更にメッセージ機能なんかもあって、その宿に行くと仲間やギルドからお手紙が届いていたりもする。


 ……仲間いないけどあたしは。


 とにかくそんな感じで宿屋としての意味合いもこのフルダイブ型のゲームではただの回復する場所ではなくなっていた。

 使い方によっては便利な機能でもある。

 なので早速あたしもこの砂の街に宿をとって拠点化する。



「で、問題の王家の墓なんだけど前作と同じならここから南の砂漠のと岩山の所だったよね?」


 ―― はいそうです。移動には約一週間かかります ――



 ナビさん、その一週間って尺度がこのゲーム世界ではあいまいで、多分移動だけに集中すると現実世界の数分で済んでしまうよね?


 リアルに同じ時間を過ごすわけにはいかないので、こちらの世界では移動でかかる時間とかは戦闘とか探索をしない限り勝手に周りが暗くなって明るくなってを繰り返し時間が過ぎた事になる。

 いくらゲーム内でもその時間経過の方法に違和感を感じるのは仕方ないけど、数歩しか歩いてなにも無ければ一日が過ぎるって設定は感覚がおかしくなってくる。


「とは言え、影移動長距離はダメだし、後使えそうなのは……」


 ウィンドウを開いてスクロールしている。

 すると魔法の欄に「空間移動」なんて魔法がある?


「ねえ、この空間移動ってどんな魔法?」


 ―― 空間移動は賢者の持つ魔法で行った事のある場所に任意に一瞬で空間移動できます ――


 なにゅ?

 そんな便利な魔法があったのか!

 じゃあ危ない時とかすぐに街に戻れるってことかな?


「例えば戦闘中にこの魔法って使えるの?」


 ―― 前回のベヒモスのようにボス部屋では使えません。しかしそれ以外の場合は戦闘中でも使えます ――


 おおぉ!

 これは便利。

 戦闘で危なくなったら 真っ先に使おう。


 ―― 但し消費魔力が大きく、パーティー全員を運ぶことは困難になりま…… いえ、なんでもありません ――


 ちょっとナビさん、そこでなぜ言いよどむ!?

 あたしがソロだからか?

 そうなのか!?



「ま、まあいいわ。使える魔法があるのは便利だし。でも初回は流石に歩いて行かなきゃか」


 あたしは軽くため息を吐いてから立ち上がり早速目的の王家の墓へと向かうのだった。



 * * * * *



「よっと!」



 漸っ!

 バシュッ!!



 砂漠にはいろんなモンスターが出る。

 この辺はスフィンクスとか言うモンスターも出てなぞなぞかけて来るけど有無を言わさず仕留める。

 なんせこのなぞなぞに負けるとどんなにレベルが高くても一発で死んじゃう時が前作ではあったので倒せる時に倒してしまう。

 

 ドロップで「知恵の実」なんてのが出て来るのでしっかりとアイテムボックスにしまっておく。



「えーと、そろそろ王家の墓かな?」


 ―― 後一日分の移動で王家の墓につきます ――


 ナビさんにそう言われてあたしはまた歩き出す。

 実際には戦闘も含めて二十分も移動してないだろう。


 でも歩いていると周りが暗く成ったり明るくなったりを繰り返す。

 そしていよいよあたしの目の前に岩山が見え始める。


「着いたか。確か岩山の洞窟に入り口があったはずだけど……」


 見えて来た岩山にはこれ見よがしにぽっかりと穴が開いていて立派な入り口がある。

 そしてやっぱり前作と同じくガーディアンが二体入り口の左右を固めていた。 


 マンティコアって言うライオンに蛇の尻尾と蝙蝠の翼があるモンスター。

 中級エリアではこいつってボスあつかいなんだけどね~。

 それが二匹も王家の墓の入り口で守りを固めている。

 

 普通に戦闘になれば面倒だけど、あの入り口に入りさえすれば襲ってこない。

 あたしは悠然とマンティコアたちの前に出て歩き始める。



『ぐるるるるるるるぅ』


『がるるるるるうぅるるるぅ』



 途端に威嚇して来るマンティコア。

 それでもあたしは歩みを止めない。


 警告をが終わって二匹のマンティコアは一斉にあたしに襲いかかる。



「はい、影移動!」



 飛び込んできたマンティコアの目の前であたしは消える。

 そして後ろの入り口に姿を現す。


 マンティコアはあたしのいた場所に爪と牙で攻撃したけどスカって周りを探す。

 そして入り口に入っているあたしを見つけると悔しそうに元の場所にまで来てしゃがんでしまった。


「んふっふふふふふぅ~、真面目に君たちの相手なんかしていられないのだよ。それじゃばいばい~」


 軽く手を振りながらあたしは王家の墓のダンジョンに入っていくのだった。



 * * * * *



「マジかこれ?」



 いや、なんか前作以上に罠がえぐい。

 前回は無かった「呪い」のトラップが増えてて流石上級者エリアと思わせる。

 これ、聖騎士とか賢者無かったらヤバいよね~。

 大神官だけじゃ解除できない呪いとかもあった。


 即効性じゃなくじわりじわりと効いてくる呪いってたちが悪い。

 

 もっとも私は聖騎士と賢者の両方持っているし、レアアイテム「魔獣装甲」が有るので毒とかになってもHPが削られる以上に回復がまさっているので実質ノーダメージ。

 毎回解毒するのが面倒なのでそのままにしておいても問題無いからすべてが終わってから状態異常の毒を解除しようと思ったら、毒が効いている間は他の状態異常にかからないと言う事らしい。



 ―― 普通は大人しく解毒します。それなのに毒状態で動き回る人は初めてです ――


「だって、毒ダメージより回復の方が速いんだもん。毎回解毒するのも面倒だし~」



 そんな事言いながら忍者スキルで罠察知したり、出てくるモンスターも魔法からの遠距離攻撃、聖騎士と剣士のスキルで連続で倒しているので結構強いモンスターもサクサク倒せていた。


 これならばマンティコアもあたしの経験値にした方が良かったかもしれない。

 待っていろマンティコア、ここが終わったら今度はお前らの番だ。



「と、何この感じ? 誰かが戦っている??」


 忍者スキルに反応があった。

 どうやらこの先で何処かのパーティーがモンスターと戦っている様だ。


 どうしようかなぁ~。

 戦闘している所も見てみたいような気がするけど、他のプレーヤーと接触するのはめんどくさいしなぁ~。



「先に他の場所探索しようかな? ん??」


 あたしがそう思っていたら目の前に銀色の犬の顔したちっこいモンスターがいて目が合った……



「……」


『……』



 えーと……



 ―― メタルコボルトですね ――



「あ”ーっ! あたしの経験値!!」


『がうっ!』



 あたしが声を上げるとメタルコボルトは声を上げて一目散に逃げだす。

 ここであったが百年目、今度こそ逃がさん!


 あたしは慌ててメタルコボルトを追いかける。

 しかし意外とこいつ逃げ足が速い。

 

 だがこちらだってステータスは半端ない。

 こいつを倒せば経験値がドンと入る。

 前回は穴開けてバグで逃げれらたけど今回は通路をそのまま逃げている。


 ならば!



 「影移動!」



 あたしはメタルコボルトの目の前に影移動をする。


「さあ覚悟なさい! って!?」


 影移動した先になんか冒険者たちがいたぁ?

 しかも全員女性キャラ!?

 なんで冒険者たちがメタルコボルトの前に先回りした所にいる?

 


『がうがうっ!!』



 声のした方を見れば冒険者の後ろにいたメタルコボルトはすぐさま踵を返して逃げ去って行く。



「あ”~っ! あたしの経験値がぁッ!!」


 

 どんっ!!



 思わず叫んだあたしの背中に襲撃が走る。

 軽い痛みと共にあたしのHPゲージが一気に減った?



「おい、お前早くこっち来い!!」


「誰よあの人?」


「さあね、いきなり現れた。でも敵に背を向けたままじゃすぐやられちまうよ!!」



 目の前の女性たちは一斉にそんな事言ってくるけど、声からしてちゃんと女性プレイヤーのようだ。

 あたしは慌てて後ろを振り向くと、そこには大蜘蛛の上に上半身女性の姿の化け物がいた。

 しかも眷属らしいちっこい蜘蛛もたくさんいて、一斉にあたしに噛みついてくる。



「くっ!」



 流石にレアアイテム「魔獣装甲」、お陰でちっこい奴の攻撃はノーダメージだけど、あっちの大きいのはやばい。

 しかも普通のアネクラではなく上位種のデーモンアネクラだ。

 そいつは手にした大鎌を振ってまたあたしに攻撃して来ようとする。

 流石に直撃はやばい。


 慌てて影分身をかまして距離をとる。



 ずばっ!

 ヒュン


 

 影分身を切り裂いている間に本体のあたしは距離をとる。



「よくもやってくれたわね、喰らえファイヤーボルト!!」



 アネクラのような蜘蛛系のモンスターは火に弱い。

 なので火系の魔法で攻撃をする。

 レベルも上がっているので結構強力なファイヤーボルトになっていて、通路全部を業火が走る。

 その業火のお陰でちっこい蜘蛛は一瞬で全滅してデーモンアネクラも一気にダメージを負う。



「よっし、斬鉄波!!」


 漸っ!



 つかさず切り込みを入れると流石のデーモンアネクラもこの一撃でぼろぼろと崩れ消えてなくなる。



 ぱさ!



 なんか糸の塊がドロップして来た。

 一応あたしが倒したからそれを拾い上げてアイテムボックスに入れる。



「な、なあ、あんた大丈夫なのか?」


「聖騎士なのに魔法を使った? どう言う事??」


「あのデーモンアネクラをたった一人で……」


「影分身使った、忍者スキルもある?」


「凄い凄い!」



 声のした方を見ると、さっきの冒険者たちだった。

 見た所タンクとアマゾネス、アサシンと魔法使い、それとエルフみたいだから精霊使いかな?



「助かったよ、あたしはさや。見ての通りアマゾネスやってるけど、聖騎士でこの上級エリヤに来てるのがいるとはね」


 手を差し出されて握手を求められているのだけど、どうしたものか。


「……」


 下手に口を開くとまた誤解されるかもしれない、なんて言ったら良いんだっけこういう時は?


 そんな事を考えているとあたしの視線の端にコソコソと動き回る物がいる。

 見ればアイアンコボルト!



「あっ!」



 思わずそいつらに駆け寄ろうとするとさやとか言ったアマゾネスがまた声を上げる。



「お、おいあんた!」


「話しかけないでもらえます!!」



 あたしはメタルコボルトを追いながら思わずそう言ってしまった。



 うああぁあああああぁぁぁぁぁっ!


 またやっちまったぁ!!

 でも今はそんな事よりメタルコボルト! 

 今度こそは!!




 あたしは呆然とする彼女たちを放置してそのままダンジョンの奥へとメタルコボルトを追って行くのだった。   


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