第二章:めんどくさいんですけど

2-1:気まぐれ


 いや、楽だわぁ~。



 今あたしは砂漠のモンスターたちをさっくりと倒しながら砂漠の街を目指している。

 この辺は上級者エリアで、雑魚モンスターでさえ中級エリアのボス並みの強さがある。


 しかし今のあたしはチートと言えるほどのステータスとスキル、そしてジョブを持っている。



「ふあはははははははぁ、モンスターがゴミのようじゃないかぁ~!!」



 忍者の索敵スキルでモンスターを事前に予測し、賢者の魔法で先手攻撃。

 ひるんだ所へ聖騎士の力で攻撃をかまし、忍者スキルを又使ってモンスターの攻撃を避ける。


 モンスターの攻撃は当たらなければ何と言う事は無いけど、万が一当たっても魔獣の鎧があるからほとんどダメージが無い。

 さらに言えばこのレアアイテムの鎧、時間とともに少しづつHPも回復する。


 そのあまりの性能にあたしは面白くなってきてそこらじゅうのモンスターを惨殺しまくっていた。

 

「アイテム又ゲット! お金もがっぽがっぽ! もう止められへんなぁ~っ!!」


 

 漸っ!



 またサンドワームを切り伏せる。

 するとバラバラに砕けて消えてなくなり、お金とアイテムが出現する。

 あたしはそれを拾い上げマジックボックス入れようとすると……



 ―― マジックボックスがいっぱいです ――



 ナビさんの声がしてマジックボックスがいっぱいであることを告げられる。

 

 マジですか?


 あれだけ拡張していたのにもういっぱい??


「うーんどうしよう、お金も億単位たまって来たし……」


 と、ふとここである事を思い出す。

 鍛冶職の上級職に錬成職ってのがあったはず。

 「やり直しシステム」で戻って錬成職取得すればもしかしてアイテム同士で別のアイテムが錬成できたりするかもしれない!


 普通は街とかに滞在して冒険をしない人が選択する職業だけど、これが有ればわざわざアイテムを探し出し錬成してもらう必要が無くなる。


「よっし、やってみるか!」


 あたしは早速ナビさんを呼び出し「やり直しシステム」で鍛冶職にまで戻り、上級職である錬成職を選ぶ。

 するとあっさりと錬成職になってウィンドウが開いた。



「なになに、サンドワームの牙二十個と砂ピラニアの牙三十個で砂の短剣が錬成できるか。うん取りあえずやってみよう!」


 あ、錬成中にモンスターに襲われるとやばいからメインは聖騎士でサブに錬成職と忍者職を設定しておく。

 これでいきなり襲われるのは察知出来て錬成も続けられる。


 マジックボックスからサンドワームの牙二十個と砂ピラニアの歯三十個を取り出して錬成を始める。


 錬成を始めるとおかれたアイテムの下に青い魔法陣が浮かび上がり、アイテムが浮かびあがって光の粒子に一旦分解されるとそれが集まってまた一つになる。

 そして輝きが落ち着くころには一本の短剣になってまた魔法陣の上に戻る。



「出来た! これが砂の短剣か。どれどれ?」



 いつの間にか取得していた鑑定スキルで砂の短剣を見ると、なかなかの攻撃力を持つアイテムだった。

 特に花嫁の護身用として高く売れるらしく、砂の街ではこれを欲しがる人がたくさんいるとか。

 

 あたしはアイテムボックスの中にあるすべてのサンドワームの牙と砂ピラニアの歯を錬成して砂の短剣にする。

 そしてそれらが終わる頃また勝手にウィンドウが開いた。


「なになに、今度は砂の短剣を百本使って錬成すると砂のシミターになる?」


 砂のシミターって言うのは砂の民が憧れる剣で、三日月のように沿っている武器である。

 確か昔のゲームでは王家の墓とか言う場所行かないと手に入らなかったはず。

 それが錬成できてしまうとは!


「えーと、そうすると砂の短剣ほとんど使っちゃうけどアイテムボックスの空きが出来るから良いか。それじゃ錬成っと!」


 ごっそりと砂の短剣を取り出し錬成を始める。

 そろそろマジックポイントも少なくなってきたけど、回復ポーションがあるから気にせず錬成を始める。


 先ほどの砂の短剣と同じく、魔法陣が現れ素材となる砂の短剣百本が浮かび上がり光の粒子に分解される。

 そしてまた集まって一本の剣にその姿を変える。



「おお~、出来た! これ前のゲームじゃ取りに行くのに苦労したんだよね~。って、ちょっと待て? そうするとこのまま砂の街に行くと今のあたしって女キャラだから求婚されるの?」



 前作で王家の谷に砂のシミターを取りに行って戻って来ると、砂の街にいるこの国の王子様に女性キャラの場合求婚されるってイベントがあったはず。

 この砂のシミターを持って街に入ると勝手にイベントが始まっちゃうはずだから、今のあたしが街に行くと求婚イベントが始まってしまう?


「うっわぁ~、NPC相手でも面倒だわぁ~。確か求婚を断ってもしつこく付きまとうんだったよね?」


 もし求婚を受けても今度はその許嫁とかが出て来てまたひと悶着があると言う風に前作はなっていた。

 最新作も同じならこのめんどくさいイベントが発生してしまう……


 うーん、めんどくさい。

 どうしよう……



「あ、そうだ」



 あたしはウィンドウを開いて捨てるを選択してその砂のシミターをこの場で捨てる。



 ―― あの、一応それレアアイテムなんですけど…… ――


「そうかもしんないけど、これ持って街に入ったらイベント始まっちゃうじゃないの。やだよ、そんな面倒なの」


 ナビさんがそう語りかけて来るけどあたしにバッサリと斬り捨てられる。


 ―― ……クエストでもその剣は手に入りますが、王家の墓をクリヤーしなければなりませんよ? ――


「いいじゃん、レベル上げにもなるから!」


 まだ何か言いたそうなナビさんを無視して私はまた砂の街目指して歩き出すのだった。



 ◇ ◇ ◇



「おおぉ~、着いた着いた」


 砂の中にオアシスを中心に高い壁で囲まれた街が見えて来た。

 確かにあれは砂の街で上級者向けのこのエリアの数少ない拠点となる場所だった。


 あたしは入り口の門の近くまで行くと、門番がいない。



「あれ? なんで門番がいないのだろう?」



 不思議に思って街に入っていると人影が少ない。

 おかしいなと思い周りを見渡すとぐったりとした人たちが路上に数人座り込んでいた。


 なんか前作と違うなぁ。

 そんな事を思いながらマップを開き冒険者ギルドに向かう。


 大通りを歩きながら露店とか見てもやっぱりみんな元気がない。

 首を傾げながら冒険者ギルドについて扉を開けると……



「おおっ、新たな冒険者が来たぞ!」


「頼む、この街を救ってくれ!」



 わいのわいの


      

 な、何だこれは一体!?

 驚き確認してみるとみんなNPC。

 つまりゲームの中の人である。


 どう言う事か聞こうとすると勝手にウィンドウが開いて緊急クエストの文字が浮かび上がる。


 内容を見ると原因不明の疫病が発生してこの砂の街の住民たちが苦しんでいるとの事。

 前作ではそんなイベント無かったのでちょっと驚き。

 しかしあたしが冒険者ギルドに入るとクエスト発動って、強制クエストだったのか!!


 内容説明を求めようとすると既に冒険者ギルドの受付嬢があたしの前まで来ていて周りの人たちは退いていた。


 

「冒険者の方、お願い致します。緊急クエストです。この街に流行っている疫病を何とかして街を助けてください!」



 うーん、このゲームよくできてるなぁ~。

 受付嬢は可愛いし、涙目で語り掛けてくるそのしぐさは男性プレーヤーなら思わず手を握って快諾するだろう。

 でもあたしは女。

 冷静にこのクエストの内容を聞く。


「クエストの内容は?」


 すると隣にウィンドウが開かれて内容を表示すると同時に目の前の受付嬢がその内容を読み始める。


 曰く、数カ月前に現れた死神が街のオアシスに呪いをかけその水を飲んだものは徐々に体調を崩し死んでいくと言う事だった。

 それを解決するにはその死神を倒して泉の水を浄化する聖なる宝石を王家の墓から持ち帰る必要が有るとか。


 このクエストは前作には無かった。

 というか、これって上級者向けのクエストじゃん。

 

 あたしまだメイン職業が聖騎士のレベルだよ?



「どうか街をお救い下さい!」



 そこまで行って受付嬢はくるりと回れ右してカウンターに戻っていく。

 周りのキャラも散って行って各々のポジションで落ち着く。


 はぁ~。

 街に入っていきなり強制クエストかよ。

 試しに他のクエストあるかどうか掲示板に行って見ると全部「暫定停止」と赤い文字が浮かび上がっている。

 試しに依頼書一枚ひったくろうとするとスカスカでつかめない。



「このクエスト終わるまで他の事出来ないって言うの?」


 ―― はい、強制クエストとなっています。街の機能も一部制限されています ――



 ナビさんがそう答えてくれるので試しに受付嬢の所へ行くと「どうか街をお救い下さい!」としか言わない。

 試しにほっぺたをつねってもおっぱい触っても同じ事しか言わない。


 あたしはため息をついてから仕方なしに外へ出る。



「取りあえず必要なもの買い込んでいらないモノ売ってからかねぇ~」



 周りを見てもほかのプレイヤーが見当たらない所見ると、まだこのエリアに到達したプレイヤーが少ないか強制クエストでみんな王家の墓に行ってるかだ。




 あたしはもう一度溜息をついてから道具屋へと向かうのだった。

  

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