第4話 語彙を獲得せよ


 プロの作家、それも文豪と呼ばれる人の本なんかを図書館で読んでいると思うことが一つある。


「なんて語彙が豊かなんだ」


 ありとあらゆるロマンチックで、かつ端的な表現が繰り広げられている。語彙の豊かさは、物書きの力量と言い換えられるはずである。


 読書量が人に語彙を与えるのだろうか。私は子供のころから人並みよりちょっぴり本を読む人間だったが、語彙の豊かさは皆無である。少なくとも、己の理想には達していない。

 これは私の仮説だが、語彙の豊さは会話、つまりコミュニケーションで培われていくと思っている。言葉は読んだだけではインプットされない。実際に使わないと語彙は増えてはいかないのだ。悲しきかな、ほんの1年前まで日常的に会話する友人を1人しか持たなかった私は、小説を書いていて語彙の少なさに泣く日々を過ごしている。


 語彙が少ないことの何が辛いって、汎用的な場面を書くときにありきたりな描写しか思い浮かんでこないことだ。

 たといえば、人物が疲れて家に帰って来る場面。これはどんな作品でも書く可能性がありうる場面だろう。私はそこで「玄関で立ち尽くす」と書きがちだ。とにかく主人公が立ち尽くしがちなのである。あと主人公疲れさせすぎ、書き手のエネルギーの無さが反映してるんだよ。やめよ?無意識にリンクさせるの。

 視覚的情報を文字に直すという描写、そろそろこれがありきたりで嫌になるから、もっと小説でしかできない詳細な心理描写ができるようになりたい。詳細な心理描写といえば、宮部みゆき。素人が生半可な気持ちで宮部みゆきを目指すと

めっっちゃ中二病チックな小説になって未来の自分が恥ずか死ぬから、ぜひ恥ずか死にたい人は試してみて欲しい。


 最近「三和土」という言葉を入手したため、一度使ってみたものの、結局不安になって玄関に書き換えてしまった。土間にしか使えねえんだ、現代劇にはまず使えねえ。


 ありきたりな描写を繰り返していると、書いてて嫌になる。何よりも書き上げることが大事なのに、とにかく嫌になって書くのを放棄してしまう。もしくは、ありきたりから逃げたくて素っ頓狂な展開に方向転換し、そのままブレーキが利かず壁にぶち当たり全てがぶっ壊れる。

 語彙を増やすことは武器を増やすこと。最近、小説雑誌を読むと語彙は増えやすいと気がついた。ラジオやテレビに似ていて、予想外の言葉や小話に出会う確率が増えるからだろう。



 無職実家暮らしが語彙を増やす場所は、図書館と仲間がいるディスコード。私はまだ言葉というものに対してヒヨコも同然で、そして怖がりなせいで新しく覚えた言葉を使えない。「怖がり」ではなく、「プライドが高い」の方が正しいかもしれない。「それ使い方間違ってるぞへっへへ~」とバカにされたら爆発して消えたくなるほど恥ずかしいのだ。


 遠い未来、私が書いた小説を読んで「語彙が豊かで憧れる」と言ってくれる人がいるかもしれない。と妄想して士気を高めようとしたが、あまりに現実味がなくていまいちやる気に繋がらなかった。はあとりあえず、書かなきゃ。完成させなきゃ。

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