第8話 異常事態(1)
マーヤとラーファが今回の処分について話し合います。
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次の日(9月11日)、いつもの様にラーファと朝食の席に着いたマーヤだが、今回の処分には大いに不満が在った。
「ねぇ聞いてよラーファ、マーヤはあの二人が退学しようが残ろうが処分そのものには興味は無いの」
「一番不満なのはアンナ先生に切りかかった事で1回も謝罪が無かったのよ!」
「人を殺したかもしれないのに悪い事をしたと思って無いのよ!」
「アンナ先生もケガが無かったからって、全然気にして無いのよ! マーヤだけが怒ってるの!」
「マーヤだけ怒っているのなら、それがアンナ先生が気にしてない理由よ」
「自分のために怒ってくれる人が居ると他の事は許せる気に成るから」
「そんなもんなの?」
「そんなものよ」
「他にもね、飛竜の子を餌付けしようとした事で、飛竜達が迷惑している事は、誰も気にして無いのよ」
「あんな事されては飛竜の子達が混乱して、群れがバラバラに成ってしまうわ」
「ティーの奮闘で何とか喧嘩を抑えてるけど、巣別れを急いでしないと喧嘩が始まるわ」
ビチェンパスト国への船出を控え忙しいラーファだけど、マーヤの愚痴に笑いながら付き合ってくれる。
「マーヤの思ったようにすれば良いのよ、飛竜の子達も巣立ちして浮足立っているだけと思うわ」
マーヤが半ばあきらめ顔でラーファに愚痴る。
「巣分かれで、問題児のヴィーを魔女学園の飛竜舎に移すから、しばらくすれば収まると思う」
「でも、砂糖の味を覚えたヴィーがいつまでも落ち着かないのよ」
急に内緒話をする様にラーファに近づき、声を潜める。
「それにね、この頃地面の下から音がするの」
「低い、ゴゴゴォー、ゴゴゴゴォー、て、音がね、するの」
「飛竜の子たちが、音が鳴るたびに落ち着きを失くすの」
「実はね、原因の場所までは分かってるの」
「カカリ村の地下に闇の森ダンジョンからの魔脈の一つが来てることは知ってるよね」
「その魔脈が大きく揺れ動いてるの」
「マーヤ、それって子ダンジョンが出来つつ在るって事?」
「分からないわ、魔脈が揺れ動いてる事は分かっても、それが何んなのかなんて、分からないわ」
ラーファを見上げて不安げに聞いた。
「たしか、地鳴りって地面がゆれる地震の前触れで起こる事も在るって記憶が在るんだけど」
「オウミ国の地盤って古い火山性の溶岩台地が雨風で削られて出来た大地だから地震はほとんど無いと思ってたわ」
ラーファも気になったのか、地震の事を色々思い出している様だ。
「そうね、オウミ国が在る部分は大陸プレートの動きの無い場所だから、地震はほぼ無いわね」
「どちらにしろ気を付ける事、何が起きても動ける様に準備する事ぐらいしか思いつかないわ」
「アッ、そうだった!」
急にマーヤが自分の部屋へと駆けて行き、部屋から箱を持って来た。
「これね、ラーファへのプレゼントなの、親子でお揃いの腕輪よ」
「此の腕輪はインベントリに成ってるの、でもカバンのようにいつも開いている状態と違って、指で触って開ける様に成ってるから気を付けてね」
「まぁ、ありがとう、これって船旅用の収納用腕輪なのね」
「嬉しいわ、マーヤの初めてのプレゼントがこんな素敵な腕輪だなんて」
ラーファはマーヤから貰った腕輪を、腕に嵌めて嬉しそうに眺めた。
「マーヤもお揃いで持ってるから、マーヤもこの中に色々入れてるんだよ」
ラーファに見える様に、マーヤの腕に在る模様を見せた。
「まぁ、驚いた、これって腕輪なの?」
「この模様は聖樹の葉?」
「そうだよ、聖樹の葉を組み合わせて輪にしたの」
「腕に模様が書かれて在るだけに見えるから、誰も腕輪だと気が付かないよ」
「聖樹の葉の模様が腕に在れば、使えるのはラーファだけって事だよ」
「どうやって使うの?」
「最初に触る時に指から生体情報を読み取るから、早めに押しといてね」
「ええ、わかったわ、こうすれば良いのね」と言ってラーファは腕輪に人差し指を押し付けた。
すると腕輪はラーファの腕に模様を残して消えた。
「無事登録出来たわ、腕輪に戻すには、触って腕輪に戻れって思えば戻るよ」
「あ、ほんとだ、腕輪に戻すと外せるのね」
「あら、腕輪を嵌めたら模様に戻ったわ」
「インベントリを開ける時は、指で模様を触って、頭の中で開けと言えば神域みたいに目の前にラーファ以外からは見えない空間が開くから」
「気を付けなければいけない事は、開けたままだと誰でも出入り出来る事だよ」
「ラーファ以外に見えなくても境目を越えて頭を突っ込まれると中が丸見えになるし、誰でも取り出せるからね」
「操作は簡単なのね、気を付けるから安心してね」
「使わない時は、開ける時と同じで、指で触って閉じろって思えば閉じるよ」
「緊急事態の時は中で寝る事も出来るけど、隙間を開けて無いと窒息するからね」
「船旅の間は神域に入れないから、この腕輪が役に立つと思う」
「腕輪の中にトイレとシャワーを付けといたから、入り口を開けたままにしたら船の中でもインベントリの中に入ったままで船と一緒に移動するから」
「そうね、色々入れておけば何かあった時対処できるわね」
ラーファは明日船に乗る、しばらくマーヤはラーファと念話も神域での会話もできなくなる。
マーヤにとってラーファとしばらくでも念話も会う事も出来なくなるのは初めてだった。
言い知れない不安をマーヤは感じていた。
でも港に停泊する時は神域に入れるので会えるから、それまでの辛抱だと無理やり心の不安をギュッと押し殺した。
ラーファがマーヤの顔色に気が付いて、マーヤをギュッと抱きしめてキスしてくれた。
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マーヤの腕輪の贈り物は第2部で活躍します。
次回は、イガジャ邸の地下室探検へ向けての準備です。
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