第6話 魔女学園(6)

 竜騎士学園の飛竜舎での事件の続きです。

――――――――――――――――――――――――

 オイラートと呼ばれた男子学生が此の一発触発の状態で介入してきた。

 「おい、ブライアン、魔女学園の女などほっとけ、それよりなついてる飛竜の子を外へ連れ出すぞ。」


 周りで見守っている4人は、ハラハラしながら見ているだけだ。

 どうやら止める積りは無いが、今の状況が良くない事は4人とも理解している。 

 彼らではオイラートを止められ無いようだ。


 仕方が無いのでマーヤが念話で飛竜の子全部にリーダーとして命令する。

 『巣に集まれ、巣に集まれ、マーヤが命令する、巣に集まれ、巣に集まれ』


 リーダーの命令だとヴィー(砂糖に夢中なメス)も、しぶしぶだが従った。

 6匹全頭が巣の在る飛竜舎の奥の寝床へと集まった。


 いきなり飛竜の子から無視されたオイラートとブライアンらは茫然(あぜん)とそれを見ている。


 マーヤは飛竜の子が集まった巣まで行くと、飛竜のメスのティーも呼んだ。

 『ティー、子供の群れ、見守ってて』

 ティーが「ピルル、ピルル」とうれしいを連発して引き受けた。


 マーヤはティーに飛竜の子を任せると、オイラートの方を向いた。

 「あなたたちは、飛竜舎に入る許可を先生に貰っていますか?」


 アンナ先生もマーヤの近くへ駆けつけ、オイラート達へ言った。

 「私たちは魔女学園と竜騎士学園の許可を得て今日は飛竜舎に用が在って来ています」

 「私たちは両学園の仕事で来ています、業務の邪魔はしないでください」


 ブライアンと呼ばれる学生が、一歩前に出て叫んだ。

 「おまえら、大公様のご子息に対して無礼だぞ! オイラート様の邪魔をするな!」


 オイラート様と呼ばれた大公の息子は、自分の邪魔をしたマーヤを睨むと。

 「俺になついた飛竜の子はどこだ! 邪魔だ! さっさと消えろ!」


 マーヤに消えろと叫ぶと、巣に集まってティーから指導を受けている飛竜の子の群れに近寄ってきた。

 行かせる訳には行か無いので、前に立ちふさがって邪魔する。


 オイラートがマーヤをどけようと手を出す前に、ブライアンがマーヤに突進してきて体ごと弾き飛ばした。

 吹き飛んだマーヤは飛竜の巣の壁にぶち当たって、土間に落ちた。

 「キャーッ! なんてことするの!」


 アンナ先生が、マーヤの元へと駆け寄った。


 さすがに此の事は見ていた4人も不味いと思ったのか、オイラートとブライアンに声を掛けた。

 「オイラート様、飛竜舎内で揉め事を起こすと学園を管理するイガジャ男爵引いてはイガジャ侯爵様のお叱りを受ける事に成ります。」


 「侯爵風情が大公の息子の私をどうこうできるわけがなかろう。」

 なんとも傲慢な男だ、それとも高位貴族ってこんななのか?


 先ほどの諫めに入った学生がオイラートを見て、侯爵様の事を知らないのだと思ったのか説明する。

 「オイラート様、侯爵様は陛下のお孫様ですぞ、大公様でも侯爵様の領地に在る、この学園の事には口出しできないのです。」


 初めて不味いと思ったようでオイラートは、どうして良いか分からなくなったようだ。


 ブライアンが再びしゃしゃり出てきた。

 「オイラート様、此処は何も無かった事にしましょう。」

 「此の魔女学園の女らはわたくし目が対処いたします、どうぞ学園へお帰り下さい。」


 そう言うと、オイラートを飛竜舎から外へと他の4人へ連れて行くように目で合図した。


 そこまで無視されて、何も無かった事にされてはマーヤもアンナ先生もたまったものではない。

 「待ちなさい、何も無かった事など出来るわけ無いでしょう! この件は男爵様を通じて侯爵様へ報告させていだたきます」


 アンナ先生のブチ切れ宣言にオイラートが反応した。

 「なんだと! こいつ事を荒立てる積りか? 無礼な真似をするなら切り捨てるぞ!」


 オイラートが問題になりそうだと感じたのか顔を赤く上気させながら、まだ女2人だと侮っている様な顔でこちらを黙ららせようと、剣に手をやり脅してきた。


 オイラートの脅しの言葉を受けて動いたのは、ブライアンだ。

 彼は剣を抜くと、振りかぶってアンナ先生に切りつけた。


 「キャーッ」アンナ先生の悲鳴が飛竜舎に響き渡った。


 マーヤは金剛身を身に纏ったままでいたので、素早く動いた。


 ブライアンの振り下ろす剣を、左足の踏み込みと同時に左手で跳ね上げる。

 マーヤの腕に「カァァーン」と跳ね上げられた剣は中程から折れ飛んだ。


 剣を振り下ろした勢いが、いきなり反対方向へと力が掛かりブライアンの肘が限界を超えた。

 ブライアンの剣を持っていた腕の肘が、衝撃で曲がってはいけない方向へと曲がっている。


 「ギャー! 腕が! 腕が!」

 痛みより、何が起こったのか理解不能な事態にパニックになったブライアンが喚き散らす。


 金剛身が練習の時も強くなっていると言われてたので、しまったと思ったのはマーヤだけです。

 まさか左手で跳ね上げただけで、剣と腕が折れるとは思ってもみませんでした。


 喚くブライアンに回復魔術を行使する積りは無いので、そのまま放置します。

 次にこの騒ぎの原因を作ったオイラートにパンチの1発でも入れようかと彼を見るとぽかんと口を開けて呆(ほう)けていました。

 こちらを攻撃するそぶりは無いようなので、アンナ先生の無事を確認します。


 アンナ先生は攻撃された時の硬直した状態から、動ける様になったのか力が抜けたように座り込んでいます。

 目が合うと少し笑って「ありがとう」と言ってくれました。

 生きた心地がしなかったのか顔色は未だ青ざめています。


 アンナ先生が無事なのを確認できたので、この場をどうするか考えます。


 いきなり切りかかる様なキチガイは厳重な処分にするべきでしょうが、処分はマーヤが下す事ではありません。

 と言って被害者は突き飛ばされたマーヤと切りかかられたアンナ先生の二人です。

 飛竜の子の件も在りますし、このまま済ます積りは在りません。


 結局、問題を学園を管理する者達へ任せるしか、他に手はありません。

 一応止めようとしていた4人へと向き直り、話しかけます。

 「あなた達に聞きますが、此の二人は竜騎士学園の、今年入学した1年生ですよね?」


 コクコクと頷く4人です、彼らも今の出来事に声を失っているようです。

 1年生は8人が今年も入学しました。

 今まで竜騎士学園内で見かけたことが無い学生なので、1年生で間違いは無いでしょう。


 「どこの大公様の関係者か知りませんが、追って学園から呼び出しが在るでしょう、今日は此の二人を連れて竜騎士学園へ戻ってください」


 知らないと言いましたが、2年生と3年生の4人に見覚えがあります。

 彼らもアンナ先生は知らなくてもマーヤの事は見た事が在るでしょう。


 彼らの主家は間違いなく北の大公でしょう、まったく北の大公はラーファとマーヤだけでなく学園にも迷惑をかけるダメな大公ですね。


 ブライアンは担がれて、オイラートは促されて、飛竜舎を去って行きました。


――――――――――――――――――――――――

 不穏な事件が起きてしまいました、此の事件は次の話へも続きます。

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