第3話 魔女学園(3)
魔女学園に通うマーヤの日常風景だと思います、たぶん。
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教室に入って、既に席に着いているクラスメイトに挨拶します。
「おはよう!」
「「「「「おはよう」マーヤ」」」今日は早いね」
マーヤと名前を言ったのは隣の席のタリナ(カタリナ)で、一番離れた席のカーシャ(カトルーシャ)が昨日の事でからかってきます。
アンナ先生から朝の連絡事を聞いた後は、マーヤは一人教室を離れます。
クラスの皆は読み書きと計算の授業がこれからあります。
マーヤは護身術を昼7前(午前中)、学園の訓練室で受けます。
訓練室では、ガラド守備隊長が護身術の先生をしてくれます。
他にも竜騎士城郭と魔女の城郭を守っている領兵の人達がこの部屋で訓練をしています。
マーヤはその訓練に参加させてもらう形で護身術を習っています。
「おはようございます」声を大きくして訓練室で訓練している人達へ挨拶します。
「「「おはよう。」」」気が付いた人から挨拶が帰ってきます。
「ガラド先生、おはようございます」壁際で全体を見ているガラド先生に近寄って挨拶します。
「うん、魔女っ子、おはよう。」
ガラド先生がマーヤを見て挨拶してくれます。
マーヤが出向いた訓練室はこの学園一の広さがある部屋です。
魔女学園の学生が護身術を習う教室だからです。
床は板の間と板の間の上にマットレスを引いた場所とに分かれます。
護身術は型稽古(かたけいこ)を二人組で行って練習を重ねて行きます。
護身術で使う道具は、無手、棒、ナイフ、剣、槍、弓、盾などがあります。
教室には練習で使う模擬(もぎ)の武器が置いてあります。
今日は最初の授業なので誰もいなければ掃除から始めます。
掃除は板の間は掃き掃除をして行き、マットレスの上も軽く掃き掃除をして。
板の間はモップでマットレスの上は雑巾で乾拭(からぶ)きします。
でも今日は既に領兵の皆さんが訓練しているので掃除はありません。
護身術を習う前に体操をします、柔軟体操をして激しい動きに体を慣れさせます。
マーヤの小さな体だと柔軟体操が終わる頃にはたくさん汗がでてきます。
持って来たタオルで汗を拭いて、いよいよ護身術の授業です。
先生から少し離れた位置で向かい合って立ちます。
此れから1年生の時習った素手の型を復習を兼ねて先生に見てもらいます。
最初は立ち方です。
足を肩幅に広げ、左足を少し前へガラド先生へ向け、左足のつま先から踵を通り後ろへ引いた1本の線上から少し離して右足の踵をおきます、この状態で無理なく立てば。
この足の置き方を左半身(ひだりはんみ)の構えと呼びます。
敵が一人または一匹の場合に、左足の先に敵を置いた構えです。
両手は武器によって変わります。
今日は無手なので、左手を左の腰骨当たりに置き、指を揃(そろえ)えて伸ばします。
右手は拳を握り、右の胸元あたりに構えます。
この後シノビの術(スキル)で金剛身、闇魔術で言う身体強化の魔術を全身に行使します。
左半身(ひだりはんみ)の構えからの変化は幾つかあります。
先手、敵が動く前に攻撃します。
後の先、敵の攻撃を待って其の動き出す前に攻撃します、機先を制すとも言います。
後手、敵が動いてから動きます、攻撃は防御か避けた後行います。
今回は金剛身を前提に、後手で動きます。
敵がマーヤの胸元へ攻撃をして来た場合の動きです。
左半身(ひだりはんみ)の構えから左足を半歩前に出します。
この左足は敵の右側へ向けて出します、するとわずかにマーヤが左側へずれるので、攻撃をまともに受けるのを避け迎え撃つ構えになります。
左足を出すのに合わせて腰を落とし、左手を顔を防護するように、下から頭の上へと相手の攻撃をはじくように上げます。
左足が地面に着くと同時に、右足をバネにして腰を右から左へと回転させます。
腰の回転に合わせ右手を正面の敵へと突き出します。
金剛身をしているのなら、敵を打つのに手のひらでも拳でも、何なら指1本でも良いでしょう。
手のひらだと衝撃は広い範囲になりますから、敵は吹き飛ぶでしょう。
拳なら、敵は強い衝撃を受け骨を折り、重傷を受けるでしょう。
指1本なら敵の急所に刺さり、致命傷を負うでしょう。
一撃必殺の攻撃です。
これが組手(くみて)なら敵役が攻撃した反対の手でこちらの攻撃を弾いて防ぐ事になります。
以上が、左半身(ひだりはんみ)の構えから一の手までの動きです。
組手ではこの後も二の手、三の手・・・ と続いて行きます。
1年生までは、柔軟体操と足さばきと一の手から十の手までの方稽古(かたけいこ)です。
でも、マーヤは授業は無くて護身術を主に習っているので、他の学生の数倍時間が在ります。
今では相手との組手の練習も進んで、そろそろ護身術の卒業認定が貰えそうです。
先ほど使った金剛身は魔女が使う護身術の基本に成ります、カカリ村限定ですけど。
おばば様とラーファの組み合わせが良かったのか劇薬だったのか分かりませんが。
この8年で魔女の闇魔術、おばばの言うシノビの術(スキル)が劇的に進化しました。
金剛身は魔女見習いでも魔力が高く闇魔術を覚えていなければ使えません。
使えれば、女性でも大男を投げ飛ばす事が出来ます。
2年生になったので、マーヤの護身術が卒業レベルか1年かけて判断してもらえるので楽しみです。
ガラド先生は魔力が少ないので金剛身は出来ませんが、マーヤと比べようが無いほど頑丈で強いです。
金剛身をしていても質量は増えないので、先生の攻撃を受けたら吹き飛んでしまいます。
吹き飛ぶだけでダメージはありません。
素手の型が終わったので、先生に組手の相方をしてもらいます。
マーヤの相手をする人は、全力を出せるのでマーヤを教える事は人気なのです。
金剛身の間はマーヤへの攻撃は、よけそこなっても吹き飛ぶだけでダメージが無い事。
反対にマーヤのつたない攻撃がたまたま当たったら、先生の方が吹き飛びます。
マーヤも加減していますが、当たった時は回復魔術を直ぐに行使して回復します。
つまりマーヤへの指導は、全力を出す事が出来、細心の注意で躱すか防がないと一撃で沈む。
稽古に熱心な領兵の方たちに実戦以上だと認定され、1回は指導したいと人気なマーヤなのです。
先生との対戦は身長と体重に差があるので、マーヤからは大型の魔物を想定した組手になります。
差し詰めオーク(大鬼)対ゴブリン(鬼)の戦いでしょうか?
こんな事を何時も思っているので、おばば様に制裁を食らった時つい言葉に出てしまうのですね。
先生は無手、マーヤも無手です。
先生が先に動きます、一の手の足さばきで右のストレートを、身長差があるので上からの打ち下ろしになります。
マーヤは後手ですから、先生が動いてから動きます。
足さばきは同じです。
左足を半歩、先生の右へと移動し腰を落とします。
腰を下ろす動作と同時に左手を上へ、指を開いた状態で手首で甲側へ曲げて力を籠めると腕に力を籠めやすくなります。
左腕で先生の右腕を下から上へと受けます。
先生の腕の重さと速さをがっちり受け止め上へと逸らします。
金剛身と体の重心を下げている事で体が泳ぐ事無く、先生の腕を逸らす事が出来たのです。
右足を伸ばす様に腰を回転させ右手を前へ出します。
先生は右腕を引きその反動を利用して左手でマーヤが打つ右手を横から弾きます。
マーヤは右手をまっすぐ伸ばしただけなのに、先生の左手で弾かれる事無く先生を打ち抜いてしまいました。
「ウボォー!」
吹き飛ばされ、二転三転した先生が床板に伸びてしまいました。
周りで稽古している領兵の人達が「ギョッ」として稽古を中断してマーヤ達を注目しています。
急いで近寄り、回復魔術を先生に行使します。
使い魔の迷宮毛長灰色狼を召喚し先生の容態を調べます。
使い魔からは、回復魔術で回復したようで異常は無いと知らせてきました。
「ゴフッ、ゲホゲホッ!」
先生が気が付いたようです。
しばらく呆けた様に放心していましたが、やがて今の出来事を理解したのかマーヤを見てきます。
「魔女っ子、又少し魔力が強くなったようだな、鉄みたいに硬くて弾けなかったぞ。」
先生は弾いた左手が痛かったのか、左手をさすっています。
痛みは治療したので無いはずなので、記憶が痛みを覚えているのでしょう。
「ごめんなさーい!」
少しマーヤの魔力(神力)が成長したのかもしれません。
次の練習時までに加減する事を先に練習しないといけません。
「ヒェー、又魔力が上がったってよ、隊長が吹き飛ぶって体重差どんくらいだ?」
「うーん、魔女っ子より隊長の方が十倍は重いと思うな。」
「良かった、俺魔女っ子と組手するの隊長が稽古したいって言うから隊長に代わって貰ったんだ。」
「お前、運が良かったな、組手してたらお前なら壁まで吹っ飛んじまってたぞ。」
稽古を中断した領兵達が騒がしいです。
ガラド先生がマーヤを見て感心した様に見つめます。
「魔女っ子、もう護身術の卒業を認定しても誰も文句は言わんレベルに成っとる。」
「魔女っ子の金剛身なら飛竜のブレス攻撃でも大丈夫な気がする。」
「先生、ブレスの炎は防げますけど、さすがに空気が燃えれば息が出来なくなりますから無理ですよ」
「なんと! ブレスの炎は防げるのか?」
「ええ、飛竜のリーダーとしてどの飛竜より強くないと務まりませんから」
「卒業を認定する!」
「飛竜と格闘して勝てる魔女っ子は、護身術卒業だ!」
「「「「「オオーッ、 おめでとう!」」」」」
あれ? 2年生の1年間を使って卒業資格を判定するんじゃなかったの?
護身術卒業認定、頂きました。
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身体強化の魔術は「魔術師、異世界をソロで往く」で出てきたのですが、過去編ではイスラーファが苦手で使わないためここで初めて出しました。
身体の周りに魔力で身体の動きを補助する魔術です。イスラーファは外骨格の様だと言って苦手にしていますが、あくまで体の動きを補助し、衝撃などから身を守るだけです。
思いもよらない護身術卒業です。
次は昼食の時間です。
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