第28話 宇宙大ブラックベリー シンドローム
「聞いてください! 宇宙最大の魔、宇宙大ブラックベリー シンドロームが地球へとやってくるのです!」
なんということはない町角の昼下がり、そのなんということのない場所で、ひとりの若い女性が必死の形相で人々に訴えかけていた。
「わたしは、あなた方が小惑星帯と呼ぶ場所にあった惑星の王女! わたしの星は遙か昔、シンドロームの襲撃を受けて粉々にされたのです。小惑星たちはその残骸なのです。そしていま、わたしの星を破壊したシンドローム、宇宙最大の魔たる宇宙大ブラックベリーがこの地球へとやってこようとしているのです! シンドロームがやってくれば地球が破壊されるのは避けられません! いますぐ対策を……!」
その女性、滅びた星の王女は必死に訴えつづける。しかし、誰も本気にするはずがない。来る日も、来る日も、王女は街角に立って訴えつづける。風の日も、雨の日も。一日も欠かすことなく、地球人を救いたいとの一心で。
興味をもったマスコミが取材に来たこともある。
テレビでその主張が流されたこともある。しかし――。
しょせん、それは『ちょっとかわった女がいる』という嘲笑交じりの好奇心。手頃なニュースネタとして取りあげられたに過ぎない。
宇宙大ブラックベリーがやってくる。
そんなことを本気にする人間などひとりもいなかった。
「宇宙大ブラックベリーだって? そんな怪獣みたいなブラックベリーがあってたまるかよ」
みんな、そう笑い飛ばしていた。しかし――。
王女の警告は本物だった。
たしかに、やってきたのだ。宇宙最大の魔、宇宙大ブラックベリー シンドロームは。
それは、はじめは小さな流れ星だった。宇宙からやってきた、たった一個の種。それが大気との摩擦に燃えながら落下して地上に降り立った。そして――。
恐ろしい速度で成長した。
もとより、ブラックベリーは繁殖力旺盛な植物。へたに植えるとあたり一面にはびこって手に負えなくなる。だから、植えてはいけない。
そう警告されるほどの植物なのだ。
まして、それが、宇宙最大最強のブラックベリーとなれば。
芽を出した途端、グングンと枝葉を伸ばし、あっという間に天を突く巨木となった。巨大な葉を広げ、陽光を遮り、あたり一面を闇に閉ざした。根元からは次々と新しいひこばえが生えだし、どんどん勢力範囲を広げていく。
もちろん、人類も手をこまねいていたわけではない。なんとかしようとした。駆除しようとはしたのだ。しかし――。
相手は宇宙最大の魔、宇宙最大最強のブラックベリー シンドローム。
いかに死力を尽くそうと、人類がどうにかできる相手ではなかった。
火炎放射器を使おうが、ミサイルを撃ち込もうが、ビクともしない。人類の苦闘を嘲笑うかのようにシンドロームは育ちつづける。
シンドロームの幹が地球全土を覆うまでわずか三日。空は完全に巨大な枝葉に覆われ、地上は完全な闇に閉ざされた。地球上の水という水がシンドロームの膨大な根に吸い取られ、海ですら干上がった。そして、とうとう――。
地球中に張り巡らされたシンドロームの根が地球をしめあげ、粉々に破壊した。
滅びた星の王女。かの
「ああ、なんてこと……」
滅びた星の王女は、地球を救えなかった自分の無力を嘆いていた。
「やはり、こうなってしまった。こうなることはわかっていたのに、わたしにはなにもできなかった。地球人もわたしたちにつづいて滅び……」
……たりは全然、していなかった。
今日もきょうとて宇宙大ブラックベリー シンドロームの枝葉の上を車が走り、飛行機が飛んでいく。
地球と同じ大きさにまで育ち、地球を破壊し、その軌道上に居座ったシンドローム。人類はそのシンドロームの上に住み着き、ちゃっかりと文明を再建していた。
「まあ、地球は粉々になったけど、これはこれで悪くないな」
「そうだねえ。とにかく、ブラックベリーだけは食べ放題だし、幹を掘れば水も噴き出す。まあ、なんとかなるもんだわ」
そんなことを言いながら、今日もきょうとてそれなりに幸せに、呑気に日々を送っている。
そして、滅びた星の王女は……。
「もう、あんたたちの心配だけは死んでもしてあげない!」
怒り心頭に発しながら、今日もたわわに実ったブラックベリーを自棄食いしている。
その姿はまさに、ブラックベリー
あとがき
ブラックベリーシンドローム?
なにそれ、おいしいの?
と言うことで、とりあえず検索。出てきたのはなんと、ブラックベリーなる携帯端末への依存症状という物騒な答え。
なるほど。そんな意味があるのか。
まあ、おそらくは偶然だろうけど。
ともあれ、そんな答えが出てきたからには活用すべきだろう。よし。ここはひとつ、依存をテーマにした社会的な作品を……と、思って、できあがったのがこれ。
なんで?
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