第19話 私は彼の霊玉を飲み込んだ

 私は陛下の宝箱だった。

 この竜宮を統べる海の王。あらゆる海の生き物を治める王のなかの王。

 その陛下の宝をこの身に納め、守り抜く。

 それが、私の役目。

 陛下がまだほんの幼い王子であった頃、その学友のひとりとして選ばれた二枚貝。

 それが、私。学友たちのなかでも特に目立つことのない平凡な存在。でも、王子はそんな私に仰せられた。

 「君のその丈夫な殻は宝物を守のぴったりだ。どうか、僕の宝箱になってよ。僕の宝をずっと守ってほしいんだ」

 敬愛する王子にそう言われ、私がどれほど嬉しかったことか。

 そして、私はその日から一日も欠かすことなく、王子の宝箱でありつづけた。この丈夫な二枚の殻の間に王子の宝物を納め、大切に守ってきた。

 それは、王子が成長し、結婚し、王位を継がれて陛下となり、新たな王子となる御子が誕生するまでつづいた。

 常に陛下のおそばにあり、陛下を見守り、陛下の大切な宝をお守りする。それだけで、私はこの上なく幸せだった。だが――。

 その幸せは突然、破られた。

 あるときからこの海の世界に大量のけがれが流れ込みはじめたのだ。

 陛下は海の民を守るべく、敢然とけがれに立ち向かわれた。しかし、けがれの量はあまりにも多すぎだ。陛下の偉大なる浄化の力をもってしてもその汚れをはらいきることは出来ず、海はどんどんけがれに侵されていった。そして、とうとう、陛下のお命が尽きるときがきた。海の民を守るために最後の一滴までも力を振り絞り、ついに、命の火を燃やし尽くされたのだ。

 「貝よ、我が宝箱たる二枚貝よ」

 「はい、陛下。私は常に陛下のお側にあります」

 「貝よ。この霊玉を守ってくれ」

 「それは……!」

 「そうだ。我が霊力のすべてを込めた玉だ。妻と共に逃がした我が息子はいずれ必ず、雄々しく成長して戻ってくる。そのとき、この霊玉を渡してやってくれ。

 我が霊力と我が息子の霊力。ふたつが合わさればきっと、このけがれをはらい、もとの海を取り戻すことが出来る。そのときまで、どうか……」

 「……わかりました。必ずや、そのときまでお守りいたします」

 「……頼む」

 陛下はその一言を残し――。

 海に還られた。

 そして、私は彼の霊玉を飲み込んだ。


 それから、どれだけの月日がたったことだろう。

 私は陛下の霊玉をこの身に納め、守りつづけている。

 いつか、陛下の思いが果たされるときが来るまで。

 海に膨大な量のけがれを流し込んだものたちから『真珠貝』と呼ばれながら。

                  完

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