第17話 50マイルの笑顔

 「さあ、いよいよはじまりました! 『ザ・トレジャーハンティング』! 記念すべき第50回の今回はなんと! 一位賞金五千万円! この賞金を手にする猛者は果たして誰か! 幾度となく試練をくぐり抜けてきた常連か、はたまた、無名の新人が快挙を成し遂げるのか! 注目の一戦だ!」

 司会者が煽るだけあおりたてる。

 だが、そんなことはおれには関係ない。おれの頭のなかは娘のことだけでいっぱいなのだ。

 生まれつき、心臓に欠陥のある娘。

 病院のベッドに縛りつけられ、機械につながれてやっと生きている娘。

 このままでは三歳の誕生日までももたないと言われた娘。

 しかし、この賞金五千万。この金さえあれば、いままでに寄付で集まった金と合わせ、心臓の移植手術を受けさせてやれる。健康な体を与え、人並みの人生を送らせてやれる。

 そうとも。おれは父親として、なんとしても幼い娘を救ってみせる。

 おれは娘の写真を握りしめた。

 「……頼む。父さんに力を貸してくれ」


 そして、おれは全力で挑んだ。

 なんてことのないテレビ番組。参加者には三つの問題が出され、与えられるヒントを頼りにフィールド内を駆けまわる。そして、最初にゴールにたどり着いた参加者が一等。五千万円の賞金を手に入れることができる。

 おれは必死に知恵をしぼり、肉体を酷使し、ふたつまで問題をクリアした。

 あとひとつ。最後のひとつさえ解けば賞金五千万円が手に入る。娘に手術を受けさせてやれる。幸い、まだ誰もゴールには至っていない。ここで一番乗りを果たせば……。

 そのゴールはすでに三つにまで絞られている。

 ひとつは巨大な笑顔が描かれた砂浜。

 ひとつは一〇枚の笑顔の絵が飾られた美術館。

 ひとつは両端に笑顔が描かれた長い道。

 このうちのどれかが正解のゴール。真っ先にそこにたどり着きさえすれば娘は助かる……。

 そして、参加者に与えられたヒントは――。

 『50マイルの笑顔』

 その一文。

 「……よしっ」

 おれはヒントの一文をジッと見つめた。そして、意を決して歩みはじめた。一〇枚の笑顔の絵が飾られた美術館へと。


 そして、一〇年後。

 おれは妻と、すっかり健康になった娘と共に公園を歩いていた。

 娘はおれと妻にはさまれ、両手でおれたちの手を握って楽しそうに歩いている。

 よかった。

 本当によかった。

 おれはあのとき、見事に一等をとり、賞金五千万円をゲットした。そして、娘に手術を受けさせることが出来たのだ。

 なぜ、あのとき、正解にたどり着くことが出来たのかわからない。人生の幸運を一度に使いきった結果かも知れない。

 それでもいい。なにより大切な娘を救うことが出来たのだ。これから先一生、幸運に見舞われなくてもかまうものか。


 えっ?

 あのヒントはなんだったのかって?

 なあに、気付いてみれば簡単だったよ。単純なアナグラムだった。

 『ごじゅうまいるのえがお』

 『じゅうまいの・えが・ごおる』

                 完

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