第15話 オーロラの雨

 それは、まさにオーロラの雨だった。

 モンスター級の磁気嵐。

 太陽の活動によって引き起こされた超巨大な磁気嵐が地球を覆い、世界各地の空にすさまじいオーロラの雨を降らせたのだ。それは、通常であれば極地方にしか出現しないはずのオーロラが日本上空にも現れるほどに巨大なものだった。

 実は、このようなモンスター級の磁気嵐は過去にも数多く発生していた。

 日本の空にオーロラが現れたという記録は古くから残されている。まずは鎌倉時代、一二〇四年二月二一日、藤原定家は京都の夜空に突如として赤気せっき、すなわち、オーロラが現れたことを目撃し、その恐怖と驚きを『明月記めいげつき』に記している。また、江戸時代にも日本各地でオーロラが目撃されていた。

 鎌倉時代ならばいざ知らず、もし、機械文明の発達した現代にそのようなモンスター級の磁気嵐が起きたならどうなるか。そのことは古くから警告されていた。

 猛威を振るう磁気によってあらゆるコンピュータは破壊され、人工衛星は機能を失い、地上は大停電に見舞われる。情報網は遮断され、流通網も壊滅するにちがいない。そして、なにより恐るべきは――。

 原発。

 もしも、磁気嵐によって制御を失った原発が暴走し、爆発すれば――。

 機械文明は滅亡する……。


 世界中の空にオーロラの雨が降りそそいでから数日。

 おれは町の様子を確かめるべく、森を出た。わずか数百人の人間が肩を寄せ合い、機械文明を捨て去った原始的な生活を送る人類最後の隠れ家を。

 町にたどり着くとそこは予想通り、死の都と化していた。動くもののひとつとてなく、灯すらもついていない。ドローンというドローンはことごとく機能を停止して墜落している。そして、いたるところ、AIを破壊されたロボットたちが倒れている。

 それはまさに、自然の猛威によって機械文明が敗北し、壊滅したことの証だった。

 おれは天を仰いだ。

 両手を広げて叫んだ。

 「やった! ついにこのときが来たぞ! これが、最後の希望だったんだ! 大自然の猛威が進歩しすぎたAIを滅ぼしてくれた! 人類は滅亡を免れたんだ!」

                  完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る