第14話 ビルの屋上は銀河

 ここはまさに銀河だった。

 軌道エレベータ。そのてっぺんに作られた宇宙港。

 もちろん、『エレベータ』と呼ばれてはいても、日常的に使われるエレベータとはわけがちがう。それは、カーボンナノチューブで作られた全長6万キロメートルにも及ぶ巨大構造体。地球と宇宙をつなぐ架け橋。人類を宇宙へと導く玄関口。

 そして、その巨大な構造体のなかに都市としての機能をすべて併せ持ち、百万に達する人口を住まわせる人類史上最大のビルディング。

 そのてっぺん部分は常に高速で動いており、この地点から宇宙船を放り出してやるだけで、宇宙船はなんの動力も燃料もなしに火星や金星まで飛んでいけるだけの加速を得ることができる。

 軌道エレベータの実現によって、人類はついに本格的に宇宙に進出することが可能になったのだ。

 そして、人類は軌道エレベータのてっぺんに作られたこの宇宙港を『銀河』と名付けた。

 もちろん、この宇宙港が銀河であることは名前だけの問題ではない。この史上最大のビルディングの屋上は宇宙に達しており、ここはまさに銀河の一部なのだ。

 ……長かった。

 『昔、読んだマンガのなかでは人類は21世紀には宇宙に進出して異星人とも付き合っているはずだったんだ! それをいつまでも、人間同士で殺し合いなんぞしていやがって』

 その怒りを胸に、人類を宇宙に進出させるべく死力を尽くした。どこぞの神の気まぐれで『死に戻り』というチートスキルを得たおれは死んでは戻り、死んでは戻りを繰り返し、人類同士の争いを終わらせ、宇宙へ進出させるために行動した。

 失敗の連続だった。

 何度、失敗し、何度、死に戻ったことか。

 もう、そんなことすらわからない。

 最初の人生などすでに遠い記憶の彼方だ。

 それだけの失敗を重ねて、それでもおれはあきらめなかった。死に戻るたび、失敗の原因を突き詰め、対応策を練り、新たな計画を打ち立てた。そして、気の遠くなるほどの人生の再生を繰り返し……ついに! この人生において宇宙進出を実現させたのだ!

 感無量だった。

 ――これでもう、死んでもいい。

 そう思った。

 あふれる涙とともに宇宙を見た。不思議なことに気付いた。星の数がいつもより多い。

 ――錯覚か?

 もちろん、錯覚だった。

 宇宙の彼方から接近してくる光り輝く無数の『それ』は星ではなかった。大きさも、形も、様々な宇宙船の群れだった。

 その宇宙船の群れからひとつのメッセージが流された。


 ようこそ、人類。

 ようこそ、銀河へ!

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