第7話「キャンディ」「楽器」「ロボット」

 その日、最後の人間が死んだ。

 しかし、それは悲しむべき滅びではなかった。自らの後継者たる種族、機械の体をもつ新人類――ロボット――を生み出し、知的生命としての役割をゆずっての穏やかな退場だった。

 そして、ロボットたちは宇宙へと旅立った。

 宇宙船に乗り込み、そのなかに地球上に残されたあらゆる生命を詰め込んで。最後の人間の死に際の言葉、人類の遺言を叶えるために。

 「見つけてくれ。なぜ、人類は生まれ、そして、滅びるのか。この宇宙に生命の、そして、知性の誕生した意味とはなんなのか。その答えを、きっと……」

 その答えを探るため、そして、自らを生み出した地球生態系を宇宙に広めるため、ロボットたちは旅立つ。

 地球から飛び立つあまたの宇宙船。それはさながら色とりどりのキャンディが宇宙に向けて散らばるように見えた。

 人類は滅び、ロボットは旅立った。太陽系に残された知性。それは、ただひとつ。

 太陽。

 かつて、人類の手によって、人類の伴侶として、人類と共に生き、人類が滅びたあとも人類のことを覚え、宇宙に向けて語りかけてくれる存在として知性化された太陽だけだった。

 太陽は亡き友の願いを叶えるために自らを楽器にかえた。

 自らの放つ重力波を震わせ、音楽を奏で、すべての宇宙に向けて人類の思い出を送り出した。どこかにいるかも知れない、いつか生まれるかも知れない他の知性に人類の存在を語り継ぐ、そのために。

 人類の思い出を奏でつづける。

 数十億年ののち、自らの寿命が尽きるそのときまで。

                   完

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