第6話 許されない恋を求めて

 「許されない恋を経験したいのよ!」

 「許されない恋?」

 「そう! 誰からも許されず、無理やりに引き裂かれて、それでも、どうしようもなく求めあう……そんな、燃えあがる禁断の恋をしたいの!」

 「そんな恋、いまどきあり得ないでしょ」

 「だから、困ってるんでしょ! 身分差なんてとっくに存在しないし、同性愛なんていまどき、タブー視する方がタブー。不倫だって『家庭を壊さない範囲でなら』って許される方向だし。親子きょうだいでの恋愛劇さえ、二次元のなかではすでに普通。ロボットや動物相手の恋だって当たり前に描かれてきた。ありとあらゆる『許されない恋』は消費されつくし、あたしたちにはなにも残されていないのよ!

 こんなことが許せると思う? 昔の人たちばっかりロマンチックな恋を体験して、あたしたちはそんな焦がれる想いを味わうことが出来ないなんて……」

 「そんなこと言ったってしょうがないでしょ。それだけ自由で、多様性が認められる社会になったって言うことよ。いいことじゃない」

 「よくない! あたしはなにがなんでも許されない恋をして、禁断の想いに焦がれたいの! だから、あたしは考えた。最後の許されない恋を!」

 「最後の許されない恋? なに、それ?」

 「自分との恋!」

 「自分との恋?」

 「そうよ! あたしたちにはもうそれしか残されてないの。だから、あたしはタイムマシンを発明した。過去に戻って可愛い盛りの高校生の自分に出会い、過去の自分と恋するために!」

 「そんなことでタイムマシンまで発明しちゃう、あんたのマッドサイエンティスト振りには感心するわ」

 「と言うわけで、行ってくるから。もう帰ることはないと思うからあとのことはよろしくね」

 「はいはい、行ってらっしゃい」


 「あれ? あんた、なんでこの時代にいるの? タイムマシンで過去に戻ったんでしょう?」

 「……うん。戻ったんだけど」

 「じゃあ、なんでいるの? 『もう帰ってこない』って言ってたじゃない。もしかして、過去の自分に会えなかった?」

 「……ううん。会えた。会えたんだけど」

 「会えたんだけど?」

 「……恥ずかしくて、見てられなかった」

                   完

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