第2話 「それ、ふたつください」(上)
「それ、ふたつください」
プロフェッサー・クマサンはいつも通り、行きつけの店でハニーケーキをふたつ、注文した。
クマサンはこの店の一番の常連。毎日、決まった時間にやってきては好物のハニーケーキをふたつ、買っていく。その横にはいつも一〇歳ぐらいの女の子がついてまわっている。
微笑ましい父娘の買い物。
事情を知らなければそう見える。でも、ふたりは父娘ではない。技術者とその製品だ。
少女はこのスペースコロニーの次世代管理者たる新世代AI。人類により快適な暮らしを提供できるよう、人の暮らしを学ばせるためにこうして毎日、決まった時間、コロニーのなかを連れまわして人の暮らしを観察させている。
その帰り道にお気に入りのハニーケーキをふたつ買う。そして、ハチミツたっぷりのハニーティーと一緒にクマサンがひとりで食べる。大好きなのでひとつでは足りないのだ。
少女にはあげない。いくら、人型とは言えAIである少女には、ものを食べる機能まではついていないからだ。だから、クマサンはいつでもふたつのハニーケーキをひとりで食べる。少女が見ているその前で。
やがて、少女の教育が終わり、オペレーターの引き継ぎが行われた。
スペースコロニーにはふたつの動力炉がある。ひとつは機械部分に動力を提供し、もうひとつは人の暮らしのためのエネルギーを供給している。
引き継ぎが終わり、これで少女がコロニーのすべての機能をコントロールすることになった。ところが――。
「プロフェッサー、大変です! 動力炉のエネルギーがふたつとも機械部分にまわっています!」
「なんだと⁉」
「このままでは人間の生活が成り立たなくなります!」
「どういうことだ、どうして、人間側にエネルギーを供給しない⁉」
クマサンは少女に詰め寄った。少女は動力を指さすと機械的な無感情な声で言った。
「それ、ふたつください」
完
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