お題企画参加作品集 ASSS宝島!

藍条森也

第1話 幸せな負け

 カケルは中学一年男子。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、女の子たちの憧れの的。しかし――。

 『生まれついてのギャンブルの天才!』を自認する学校一の問題児。

 クラスメイトと『昼食をどっちが奢るか』なんて賭けるぐらいならかわいいものだが、おとな相手に現金を賭けて勝負までしているとなれば放ってはおけない。そんなカケルを矯正きょうせいするべく幼馴染みの学級委員長フウキと担任の女教師がいま、立ちあがる!


 「先生! なんとしてもカケルのやつをらしめてやりましょう!」

 「そうね。教師として中学生が賭け事に夢中になっているのを放ってはおけないわ。でも、どうすればいいかしら? いままでいくらお説教しても聞かなかったんだから」

 「あいつの賭け事好きを逆用するんです! あいつは賭け事の約束は守ります。あたしたちふたりであいつと賭けをして、負けたら二度と賭け事はやらないと約束させるんです」

 「……そうね。教師として賭け事はどうかと思うけど、あの子をらしめるためにはそれが一番ね。いいわ。やりましょう」

 「はい!」


 翌日。

 フウキはさっそく、カケルに持ち出した。

 「カケル。話があるわ」

 「なんだよ、また例の話かよ。何度言われたっておれは賭けをやめる気はないぜ。賭けこそおれの人生なんだ」

 「だから、あたしと勝負しなさいって言ってるのよ」

 「なんだって?」

 「方法は簡単よ。ここにひとつの箱があるわ。このなかにはあたしの作った一〇のお題を書いた紙が入っている。その一枚を取り出して、あたしがそれを許可するかどうかをあんたが判断する。あんたが勝てば賭け事に関してはもうなにも言わない。そのかわり、あたしが勝ったら金輪際こんりんざい、賭け事はしないこと。いいわね?」

 「まあ、いいけど……でも、それだと、お前は後からいくらでもちがう答えを出せるんじゃないか?」

 「そうならないように、あらかじめ答えを紙に書いて伏せておくの。そして、同時に出すのよ」

 「なるほどな。それはいい。でも、もうひとつ。お題を作るのがお前だけって言うのは不公平だ。おれにも同じ数のお題を書かせろ。そうしたら、お前の言う条件で受けてやる」

 「いいわよ。好きなお題を書きなさい」

 「よし、きた!」

 そして、カケルは自分でお題を書き、箱のなかに入れた。

 「では……!」

 「ああ」

 フウキが箱のなかに手を入れ、一枚の紙を取り出した。その紙に書いてある言葉は――。

 ――フウキがおれの彼女になる(その証拠として、この場でチュー)。

 ――ちょっ! カケルのやつ、よりによってなんてお題を……そりゃあ、あたしだってもう中学生なんだし、そろそろお付き合いのひとつもしていい頃かも知れないけど、でも、だからっていきなりチューって言うのは、なんかいろいろすっとばしてる気がするし、で、でもでも、なんかいい機会かもだし……って、ちがう! そうじゃない!

 ――そ、そうよ! 学級委員長としてこいつに思い知らせる良い機会だってこと。まさか、こいつだってあたしがこんなことを認めるなんて思うわけないものね。許可してやれば絶対、勝てる!

 ――そうよ。これはあくまでも学級委員長としての務め……!

 フウキはそう思いながら紙に一言『許可』と書いた。

 そして、カケルとフウキ、ふたりの紙が開かれた。

 カケルの紙に書いてある言葉は――不許可。

 「見なさい! あたしの勝ちよ」

 「でも、ちゃんとチューまでしないと賭けは成立しないぜ?」

 「う、わ、わかってるわよ、やりなさいよ」

 「い、いいのかよ? チューだぜ、チュー?」

 「な、なによ、自分で書いたくせに。いまになってビビってるの?」

 「そ、そんなわけないだろ!」

 「じゃあ、やりなさいよ!」

 フウキはそう叫ぶと両目をギュッときつく閉じた。両手もしっかりと握りしめられている。その様子に――。

 さしもの自称・生まれついての天才ギャンブラーもためらった。それでも――。

 チュッ、と、小さな音がしてふたつの唇がふれあった。

 幼馴染み同士の軽いファーストキスだった。

 「ど、どう? これで賭けは成立よ。あたしの勝ちよ。いいわね?」

 「あ、ああ……」

 「こ、これでもう、二度と賭け事なんかやらないのね?」

 「ああ。お前の覚悟には負けた。もう金輪際こんりんざい、賭け事なんかやらないよ」

 ――やったあっ!


 フウキは喜び勇んで担任教師に報告に行った。

 ところが、それを聞いた担任教師は悲鳴をあげた。

 「え、ええ! まさか、そんな……そんなことって……」

 「ど、どうしたんですか、先生?」

 「だ、だって、だって、いつも真面目なフウキさんがそんなことを認めるなんて思わなかったから……」

 「だから、どうしたんです、先生⁉」

 「今日中にフウキさんの唇を奪えなかったら賭けはやめる。奪えたら先生が彼女になってあげる。そう約束しちゃったのよ!」

               完

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