詩「静寂の体の中にある、」

有原野分

静寂の体の中にある、

耳の中に充満する空気は一秒前の過去だろう

 か

その爆発寸前の静けさに心臓が何度も止まる

 夜、

見えないという自由が恋したように

ヒトは太古の孤独をいつまでも忘れられない

 でいる


耳を澄ます

隣りで横たわっているモノが死体ではないと

 口を噤みながら

つまり死は絶対的な服従であると

声がする

体の内側の

奥の奥から声がする


内臓がキシキシと動くその音に耳は捕縛され

 た

窓ガラスの向こう側は想像の温床だ

ネコが空を飛び回るように

愛する人の永遠を一億五千年後も願い続けら

 れるのだろうか


細胞は死んでいくというのに

死は静けさという完璧な暴力によって黙殺さ

 れる

ヒトは聞くことしかできない

春が爆ぜるような不快な音を

海を


黙るという行為に灯りを見る

ヒトは星が回るその速度に今でも順応できな

 いから

死を死と受け入れる三畳半の部屋もなく

窓もなく

真夜中にはなにもなく


静寂、

眠るという選択と

その胸部に響き渡る空気の足音は

果たして朝日が昇るときの騒然でありそのも

 のなのだろうか

耳を塞ぐ

塞ぐ

聞こえてくるものは

体の中にある死ね、真夜中の

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詩「静寂の体の中にある、」 有原野分 @yujiarihara

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