第3話 裏ギルド


 妹が手招いている。

「兄者や兄者、に会ってみたくはないか?」

「なんだその口調って……マスターってまさかあのマスター……?」

 ヨー〇的な、〇ォースの導き的な。

「そのマスター……って言ったら?」

「行く! 絶対行く!」

 だって男の子だもの、わくわくするもの。

「流石、お兄ちゃん! お兄ちゃんならそう言ってくれると思ってたよ! さあ行こう! 裏通りにあるから!」

 ある?

 なにが?

 ギルドを出て表通りから裏通りに入る。

 薄暗くてネズミとかいる。

 なんだここ。

「こっちこっち」

 我が妹(魔王ハデス・イン・ザ・ギャラクシー)は裏通りの一角の扉を指さす。

「此処にマスターが……」

 俺は嫌な予感を覚えながら扉を開く。

「いらっしゃい」

 そこはバーだった。

「マスターってそっちかよ!!」

 騙された俺は深く項垂れた。

「なんだと思ったのお兄ちゃん?」

「うるせぇ!」

「おや魔王様」

 ん?

 妹の知り合い?

「魔王軍幹部、マスター・ポセイドンだよ」

「魔王軍幹部……!?」

「ええ、ここで裏ギルドを取り仕切っております」

 裏……ギルド……?

「要は市営のギルドなんだけどね、色々非合法なの」

「……それだけ?」

「それだけだよ?」

 俺は再び深く項垂れた。

 そこに来客が訪れる。

「マスターやってるかい」

「おやレギオン、やってるよ」

 ……ん? レギオン?

「あん? ……って!? 先客かと思ったらお前らかよ!?」

 さっきかっこよく「また会うだろう」的な事を言ったばかりの奴だ。

 白銀の獣人が赤面している。

「ま、また会いましたね……ブフゥー!!」

「笑うなァ!」

「げらげらげら」

「はいはいバーの中では静粛に」

 此処の権限はマスターにあるようだった。

「ねーポセイドンなんか稼げるクエスト回してよー、表じゃ合法でS取ってもちゃっちいんだよぉー」

「とは言いましても、魔王様、自ら出向いてまで稼ぐ必要性を感じないのですが……、ペルセポネ様に金庫を開けてもらえばいいのでは?」

「あいつかー……あいつ苦手なんだよなー……」

「そういえば不仲でございましたね」

「誰よペルセポネって」

 そこで妹(魔王ハデス・イン・ザ・ギャラクシー)が言う。

「カエデおねえちゃんだよ?」

「カエデ!?」

 カエデって、あの檜村ひのむらカエデ!?

 幼馴染の腐れ縁!?

 どうして奴が此処に……。

「まさか、と思うが、他の連中も異世界に来てるのか?」

「他って誰? ミヤビお兄ちゃんとか?」

 また腐れ縁の名前が出た日下部ミヤビ。

 なんだなんだ縁が近いやつみんな異世界転移したってのか!?

「ちなみにこのレギオンさんはコノハおじさんです、マスターはタテオおじさん」

 親戚の名前が挙がり戦慄する。

 よく目を擦れば、その姿がダブって見える。

「んあ? リョウにハルか?」

「あーが解けちゃった、再演リロール再演リロール

「んあああああ」

「いやなにしてんのお前」

 見て分かんないのと言った素振りをする我が妹。

「ここはねお兄ちゃん、集合的認知の世界なの、だから一斉に認知が解けると世界が壊れちゃう」

「しゅうごうてきにんち???」

「今は分かんなくてもいいよ、さ、お兄ちゃん、この裏SSS級任務に挑もう」

 そこには「超弩級ベヘモス攻城戦」の文字があった。

「……オーバー・ザ・リライトは」

「分かってるよ、禁止でしょ」

 そう言って我が妹は手招いた。

 バーの扉を開けると、そこは城塞都市の最前線だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る