第1話

 その日は朝からとても気持ちのいい天気だった。

 三年間勉強に勉強を重ねて入試を突破したあたしにとっては、サイコーの日となるはずだった。

「あかり、朝ごはんできてるわよ」

 階段の下からママが声をかけてくる。

「はぁーい!」

 あたしは返事をすると、部屋を出る。

 今日はサークルの親睦会で、テーマパークで一日遊び倒すのだ。

 食卓に座るともう既に家族全員集まっていた。

「今日はどうするんだい、あかり」

 おばあちゃんが尋ねてくる。

「うん。大学の皆と一緒にユニバに行ってくる」

「そうか。じゃあ帰りは遅いのか?」

 とは、おじいちゃん。

「うーん……まだ決めてないけど、遅くなると思う」

 あたしが返事をすると、おじいちゃんはさっと懐から財布を取り出した。

「少ないけど、小遣いの足しにしなさい」

「えっ、いいの? ありがとう、おじいちゃん」

 あたしとおじいちゃんのやり取りを横目で見ながら、ママが「また甘やかして」とかなんとかブツブツ言っている。

「楽しんでおいでね」

 おばあちゃんの言葉に大きく頷きながら、あたしはちらっとパパのほうを見る。

「ね、パパは? ちょっとぐらいお小遣い、臨時で……」

「あかり、いい加減にしなさい」

 ママが横から口を出してくる。

 あたしは急いで朝ごはんを食べてしまうと、歯磨きをしてピンクのトートバッグを手に取る。

「晩はどうするかまだ決めてないから置いといてね、ママ」

 玄関から声をかけたら、またママが文句を言っているのが聞こえてきた。

 おろしたてのパンプスを履いていると、パパがそっとやってきて一万円札を渡してくる。

「ママには内緒だぞ」

 あたしはうん、うん、と頷いて、大きく「行ってきます」と家を飛び出した。

 空は青く、風は爽やか。

 絶好のサークル日和だよね。

 そんなふうに駅へと向かったのに。

 それなのに、駅に辿り着く前に、パンプスの踵が折れてしまったのだ。

 いったん家に帰って履き替えよう。行先はわかっているから、後から合流すればいい。そう思って今来た道を戻り始める。

 事情を説明しようと携帯を取り出すと、留守電が入っていた。

 同級生のサークル仲間からだった。

 メッセージを再生すると、今日の親睦会は中止になったとのこと。どこかで大きな事故があって、集まることができなくなったのだ。

 あたしは意気消沈してトボトボと家へと歩いて帰る。

 あんなに楽しみにしていたのに、なんで中止になったのよ。皆で、今日は一日遊び倒すつもりだったのに。

 ムスッとした顔で家に帰ると、家族が口々にどうししたのかと尋ねてくる。

 あたしは腹立たしくて悔しくて、ただただしかめっ面をするばかりだった。

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