第4話 メチャイカセ隊

翌日。


朝鳥がチュンチュンと鳴く声に目を覚ました。

こういうのってやっぱり、どこの世界でも変わらないんだなぁ、と思ったりする。


(俺の一日はこうして始まるのだ)


日本でもエロゲの世界でも変わらない。


陽は昇り沈んで月が上がる。


太陽がサングラスをかけて


『へい、ベニス。今日もその競パンはエロいぜベニス!』


とかって脳内に語りかけてくる以外は普通だ。


『ベニス、そんなに落ち込むなよ。なに、どーしたよ?俺とお前がいりゃ世界は回る。どーんといこうぜ相棒。ふたりで回そうぜ世界を』


なぁ、俺がおかしいのか?

この世界がおかしいと思うんだけどだんだん自信がなくなってくるよ。


そんなことを思っていたら自室の窓の外から声が聞こえてきた。


「メスマン帝国魔法部隊陸軍所属ヴァギナーニャ・ビクチ・ヴァギトリス到着した!ベニス!早く出てこい!学園に行くぞ!」


カーンカーンカーンカーンカーン!!!!


「はぁ……」


窓際に寄ってみたらナーニャがウチの門のところで鐘叩いてた。


この世界はほんとに素晴らしいな(皮肉)


日本にいたらこんな奴いたら速攻通報してやるんだが、この世界じゃどうやら俺の方がおかしいらしい。


「今行くから待ってろ、そこで」


窓を開けて乱暴に言い放ってからピシャリと閉めた。


「……」


特に何も言うこともなく俺はカバンを手に取って下に向かうことにした。


朝から幼なじみが迎えてくれて嬉しいよな。


日本じゃこんなふうに幼なじみと触れ合ったことってないからな。

幼なじみは俺の顔見て『キショッ』って言ってくるような奴だったからな。


ナーニャが変人通り越して狂人じゃなけりゃ、泣いて喜んでたところだよ。


マジで。


「ふぅ……」


玄関の扉を開けて庭に立つとウチの門の外で待つナーニャの姿が見えた。


「おはようベニス。今日はお前が大好きな競パン作成の授業があるぞ」


(そんな授業いらねぇよ)


ガラガラー。

横開きの門を開けて外に出る。


ナーニャの姿を見る。


「どうした?私のドスケベ淫乱ボディから目が離せないか?」


こんな変人じゃなけりゃ、その体にむしゃぶりついて、エチエチなことのひとつやふたつしたくなるくらいド淫乱ドスケベボディだが。


中身がちょっと……。


いや、見てくれだけは最高なんだけどな。

そう思いながら歩き始めるとナーニャが着いてくる。


「メスマン帝国からの連絡が途絶えて数日……彼らは無事なのだろうか……かつて同じ学校で学んだ彼らは……」


国名もう少しなんとかならんかったん?


「くそ!魔王が……まさかメチャイカセ隊まで投入してくるとは……私も予想ができなかった」


また新しい単語が出てきた。


もう昨日から俺の脳はレイ〇されっぱなしだ。


マジで情報の塊がジャンジャカ流れ込んでくる。


「私の親友カレリアがメチャイカセ隊に捕まったのだ……くそ……このままではカレリアがメチャイカされてしまう」


それは大変だな。


そう思いながら歩いてると


「なぁ、ベニス」

「ん?」

「私は憎いよ魔王のやつが……メチャイカセ隊が」

「だからってどうしろって言うんだ」


俺は振り返って聞いてみた。


そのメチャイカセ隊にしても魔王にしても俺たち一般人じゃどうにもなら……。


いや、俺は原作じゃ闇落ちして四天王まで上り詰めたんだったな。


正直言おう。

俺今自暴自棄になってる。


だって、こんなイカれた世界に放り出されてさ。


こんなイカれた奴の隣にいるんだよ。

なら、ちょっとくらい自暴自棄になっても不思議じゃないよな。


ってか


(カレリア……か)


やっと普通の名前が出てきたよな。


もしかしたら俺と同じ感覚の人かもしれない。

今までふざけた名前のやつしか出なかった中やっとカレリアっていう普通の名前が飛び出てきた。

そこで思う。


(捕まったってことはまだ殺されてない、んだよな?)


メチャイカセ隊ってのがなんなのかよく分からないけど、分かることがある。


カレリアがたぶん生きてるってことだ。


なら


(カレリアを助け出せれば……俺はこのイカれた世界を少しはなんとか出来るんじゃないか?)


少なくともナーニャだけの現状よりマシだと思う。


(よし、決めたぞ)


ナーニャを見た。


「カレリアを助けに行こうナーニャ」

「なっ?!」


俺の胸ぐらを掴んでくるナーニャ。


「お前、命を捨てに行くのか?そんなこと私が許さん。命は大事にしろ。奴らは男だろうが容赦なく妊娠させてくるんだぞ?!」


ふざけた世界でふざけた名前してる割には思考回路はそこまでぶっ飛んでないよな。


でも、言ってることは違うんだよな。


「ちっちっちっち……」


人差し指を横に振って今の言葉を否定する。


「違うんだよ。命を拾いに行く。カレリアを助けよう」


見ず知らずの人間だが、普通の名前をしてる。


ってことは俺と近しい感性を持ってくれた人かもしれない。


ならこのイカれた世界を多少は中和できるはずだ。

今の俺に必要なのはただひとつだけ。

それは。


常識人だ。


俺と近しい感性を持った人が近くに欲しい。

じゃないと俺の頭はこのままおかしくなってしまうだろう。


「お前の話を聞く限りカレリアってやつはまだ死んでないんだろ?」

「あぁ、メチャイカセ隊の攻撃方法は基本的にその強靭なチ〇コを使っての無尽蔵ハメハメ戦法だ。卑劣な奴らだ。男も女も問わずチ〇コを使って穴という穴にねじ込み、あの悪魔の液体で我々を窒息死させにくる。その特性上奴らは人を殺すのに時間がかかるんだ」


(なぁ、これ俺何かのドッキリされてないか?こんなん笑うなって方が無理だろ?)


てかもう、殺し方がのんびり屋過ぎるだろ?!

そこはもうズバッと刃物でやっちまえよ?!


なんだよ!窒息死って!


「奴らに殺された遺体は酷いんだ。穴という穴から液体がトローっと垂れ流れていて、顔なんて液体で見れなくなってる」

「お前はカレリアって友達をそんな目に合わせたいのか?」

「い、嫌だ!」

「だろ?」


俺はそのまま聞いてみる。


「ナーニャ。どこまで行けば助けられる?」


ゴクリ。

唾を飲み込んだナーニャ。


「メチャイカセ隊本拠地。イカーセ洞窟だ」

「いつから向かえる?俺としてはこのまま学校に登校しなくてもいいが」


カレリア……名前だけなら常識人だ。

今すぐにでも助けに行って普通の会話をしたい。


俺は今すっごい普通の人と話したいんだ。


「だ、だが私たち学生に出陣の許可は出ないぞ。私たちはまだまだ学生」

「なら秘密裏に行こう」

「なっ……死んだ時行方不明扱いだぞ?」

「死んだら死んだで構わん」


どうせ俺は本編で死ぬ事が確定してるし。


言ったろ。

自暴自棄になってるって。


こいつにテクノブレイクで殺されるのも、メチャイカセ隊に窒息死させられるのもそう変わらん気がする。


だから死ぬのが早いか遅いかだけの違い。


「お前が行かんと言うなら俺だけでも行く。カレリアを助けに」

「……分かった。行こう」


そう言って俺の股間をムギュっと掴んできた。


まったく嬉しくない。


「この魂に誓おう。お前も誓え。必ず生きて帰ると。そしてメスマン戦士の誇りをここに。我々は絶対にイカない!!!!」


俺はナーニャの頭に手を置いた。


「誓うさ」







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