第28話:体育祭開幕

そうして迎えた体育祭の日、いつもより早めに登校した俺達はグラウンドに集まっていた。


着替えた人達から各自、クラスごとに決められた位置へ、俺と雨音は男子なのでささっと着替え実行委員から受け取った。自分の分のパイプ椅子を置いて座る。


「しっかし、五月。それもまだ昼前なのに暑いな……」


「そうだな……」


一応テントは張られているが空気が暑い。


「ハンディー扇風機あって良かったな……」


「そうだな……」


ヴィーーーンと音を鳴らせ風が届く、だが暑い。


「あづぃ~」


「ほら檸檬しっかり歩きなさい……」


「でもぉ……」


「ほら、もう佐伯君達は居るんだから」


「あ、ほんとだ。やほー二人共」


そうしてダレていると檸檬と弓場さん、それからクラスの女子達も来た。


「檸檬達、意外と早かったな」


「そう? これでもしっかり日焼け止め塗ったりしてるから時間かかってるよ?」


そう言って襟元を引っ張ってみせて来る、いきなりの白い肌が目に毒だ。


(今なんかライムグリーンのが見えたけど……気にしないでおこう!)


「ちょ!? 檸檬! 駄目!」


弓場さんにそう言われ檸檬がハッとする、あわてて襟元を放し苦笑いをする。


「あはは……見た?」


「いや、別に何も……」


「嘘だ! その反応絶対見た!!」


「見て無いよ、そもそも何を見たっていうのさ」


「私のブラ」


「檸檬! そういうのはぼかしなさいよ!!」


「はっ!? で、でも見たでしょ私の白いの!」


「え? ライムグリーンじゃ? あっ……」


テンパって、つい無意識的に答えてしまった……。


「ぎゃあぁぁぁあ!? 見られたあぁぁぁ!!」


いや! 女の子としてその悲鳴はどうなんだ!?


『キャー』とかならわかるけど『ぎゃああ』は……。


「見られた……翔に見られた……るーるるー」


椅子の上に、器用に三角座りをしながら真っ白になっている檸檬。


「うっ……すまない……」


「まぁ、何も考えず見せた檸檬にも非はあると思うけど……」


「ひとみん……わかってるから言わないで……」


「いや、見た俺も俺だから……」


「でも、目の前にあったら見るだろ?」


「そりゃモチロン! ってゴラァ! 雨音!」


唐突に罠にかけてきた雨音の頭をロックして絞める、力を入れてると雨音がタップしてくる。


「ちょ……ギブギブ!」


「ったく……変な事言わせるなよ……」


そうしていると耳まで赤くした檸檬が上目遣いながらつぶやいた。


「翔のえっち……」


「ぐはっ……」


その場に膝を付く、可愛すぎるのと、罪悪感が混じって死にたくなった。


「うぅ……すまない檸檬……」


「い、いいよ……見せちゃったのは私が原因だし……」


赤くなりながらぶっきらぼうに檸檬が言う。


「それでもごめん」


「はい、この話は恥ずかしいから終わり! そろそろ時間でしょ?」


檸檬が手を打って話を中断する、堂々巡りになりそうだったし渡りに船だ。


「そういえば、真白さん達は?」


弓場さんが時計を見て不安そうにする、チャイムも鳴ってたしそろそろ始まるだろう。


「そうだな……隣は真白達のクラスなのに居ないし、どうしたんだろ?」


ちょっと見てくるか……。


「電話も出ないね……」


檸檬が電話をかけているが出ない。


「とりあえず見てくるか。雨音、もし入れ違いになったら連絡してくれ」


「了解」


そうして校舎へ駆け出した。


◇◆◇◆◇◆◇◆

「うーん……居ないな……」


真白のクラスを覗いてみるがだれも居ない、売店や自販機コーナーをみてまわったけど入れ違いかな?


後は更衣室なのだが男の俺には行き辛い……。


(まぁでも外から声掛ける位は出来るか)


そう思い階段を上がると悲鳴が聞こえた。


(今の声……)


階段を駆け上がり更衣室の前の廊下に向かうと、女子更衣室から男が飛び出してきた。


「泥棒ーーーー!!」


すかさず真白がとびだしてきた、下着姿で。


「って、真白!! 服!!」


「え? あっ! きゃぁ!!」


「どけええええええ」


やばい、真白に見惚れてて泥棒が目の前に……。


軽い衝撃と、揺れる視界、そして倒れ込む音。


受け身を取って顔を上げると、男と目が合った


「クソッ!!」


「あっ、待て!! 逃がすか!!」


階段を飛び降りていく泥棒、俺も飛び降りながら追いかける。


「クソ……向こうのが早い……」


階段を降りながら打開するための催眠術を考える。


---------------------------------


 始動キーは【止まれ!!と叫んだら】


 内容は【犯人はあしをもつれさせて転ぶ】【腰を抜かす】【俺に抵抗できない】


 解除キーは【警察に引き渡したら】


---------------------------------


そして昇降口のある階に到着したタイミングで「止まれ!!」と叫ぶ、すると足を縺れさせて転んだところに追い付いて拘束を仕掛ける。


スマホを取り出して緊急通信で警察へ連絡を掛ける。


「どうしました? 事件ですか? 事故ですか?」


「事件です! 衣服の窃盗犯を確保しています!」


「場所はどこですか?」


蒼翠峰そうすいほう大学付属高校です!」


「わかりました、直ちに向かいまます」


「クソァ!! 放せクソガキ!!」


そして大わめきしている最中に先生も来て、窃盗犯はあえなく現行犯逮捕となった。


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