第35話 一家団欒
「いやあ〜ほんとにおまえはいい人を拾ってきたなぁ、伊月ぃ!」
夕飯待ちのお茶の間で男2人。
風呂上がりの父さんはダッハッハと上機嫌に笑って俺の背中を叩いてくる。
「いや拾ってきたって……永遠さんに失礼でしょ……」
まぁ事実として最初は拾ったようなものなのですが。さすがにそこまで話すつもりはない。
父さんは俺の言うことなどお構いなしで、やはり楽しそうにずっと笑顔だった。
キッチンの方では女手3人が忙しなく支度をしてくれている。
料理上手な母さんと永遠さんが揃い、莉子まで手伝っているとなると残念ながら男の出る幕はない。
下手なことをすれば逆に邪魔者扱いされるだろう。いや、永遠さんはそんなことしないけど。我が家の末っ子は厳しいのだ。
やがて料理が出来上がり、永遠さんが綺麗に盛り付けていく。完成したお皿を自ら配膳するべく持ち上げた。
「あっ、永遠ちゃん! わたしが運ぶよ!」
「ありがとうございます、莉子ちゃん」
「え、えへへ……料理はあんまし手伝えないけど、これくらいはね……!」
すっかり永遠さんに魅了されて懐いた莉子は家族同然の振る舞い(俺や父さんにはデレない)でいじらしく笑い、料理を運んでくる。
「はいおにぃ。いい感じに置いて」
「はーい」
テーブルにポイされた皿をきちんと並べていく。
食事時の男は家庭内で底辺であるからして、妹から雑に扱われても何も言えない。
大体の料理が出揃うと、永遠さんはお盆に瓶ビールとグラスを載せてやって来た。
俺に目配せしてから父さんの前に膝を付いてグラスを手渡し、ラベルを見せるように瓶を持つ。
「お義父様、お注ぎいたします」
「お、おお、悪いね。ありがとう」
ゲヘゲヘという笑い声が漏れ出しそうなほどにデレデレな父さん。永遠さんはニコリと笑って、丁寧にお酌した。
その次に俺のビールも注いでくれた。
「ごめんなさい。後回しになってしまって」
「全然いいよ。父さんめちゃくちゃ嬉しそうだし」
「私の一番は、伊月さんですからね……っ」
父さんに聞こえないように小声で話し合う。それだけでなんだか心が満たされた。
そして、永遠さんを交えた楠原家の団欒が始まる。
「永遠しゃ〜ん、おしゃけおかわり〜。うぃ〜」
「お注ぎいたしますね」
「うへへぇ、永遠さんも飲んでるか〜い?」
「はい、いただいています」
「それじゃかんぱいしよ〜う! かんぴーい!」
「乾杯です。ふふっ」
日本酒に移り変わっても絶好調な父さんの相手を笑顔でやってのける永遠さん。
「永遠ちゃーん! 酔っ払いなんか放っといてわたしとお話しようよー!」
「永遠さん、私ともっとお料理のお話をしましょう?」
大人気で、完全に引っ張りだことなっていた。
「ええーいうるさいぞおまえたち〜。永遠さんはこの偉大なるお義父様とお話したがってるんじゃ〜い!」
永遠さんを巡って家族戦争が巻き起こりそうな勢いである。これではさすがのメイドさんも対応しきれないだろう。
「おい父さん、あんまりわがまま言うなって。永遠さんが困ってる」
「なんだと〜?」
向けられた酔っ払いの視線に俺は笑いかける。
「たまには息子がお相手しますよ、お父様」
「む、むぅ……それはまぁ、やぶさかでもないが……お父様はキモい。それは永遠さん専用だからな」
「んなこと言ってる還暦前のジジイの方がキモいよ」
今度は俺から永遠さんへ目配せして、父さんの相手を受け持つことにする。
永遠さんはぺこりと小さくお辞儀して、母さんたちの方へと席を移した。
「永遠ちゃん永遠ちゃん、今日はわたしの部屋で一緒に寝ようよ」
気を許した相手にはとことんベッタリな莉子が永遠さんにすがる。
「うーん、それは大変魅力的ですが……ごめんなさい莉子ちゃん。それはまた今度です」
「えー、なんでー?」
「私の大事な人がとっても寂しそうにこちらを見ていますので」
そう言って、流し目を寄せて来る。
え、俺?
「おにぃなんかどうでもいいよ! どうせ永遠さんに甘えてばっかりなんだから!」
「そんなことはありませんよ。今夜は私もたくさん、甘えさせていただくつもりですから……♪」
「あらあらぁ」
永遠さんの大胆発言に莉子は顔を真っ赤にして言葉を失い、母さんはどこか愉しそうにうっとりと頬に手をあてた。
「ね、伊月さん?」
そこで俺に振ってくるのか……!?
「ふふっ♡」
べ、べつに家族に対して嫉妬とかしていたつもりはないんだけどなぁ……。
その後、2人きりの部屋でたっぷりと甘え合った。
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