第24話 初デート
「お待たせしました、伊月さん」
アパートの前で待つこと数分。
永遠さんがやってくる。
今日は待ちに待ったデートの日。
穏やかな秋晴れに恵まれて、絶好のデート日和。お昼から出かけることになっていた。
なぜか一足先に出ていてくれと頼まれた俺は言われた通り待っていたのだが……
「————っ」
その姿を見て、思わず目を疑った。同時に、見惚れてしまう。
永遠さんはいつものメイド服ではなかった。
「……どうでしょうか」
少々控えめに頬をほんのりと染めながら聞いてくる。
初めて見る恋人の私服は、ホワイトを基調にしたふんわりまろやかなトーンコーデ。
彼女の纏う柔らかな大人で上品な雰囲気と煌びやかな銀髪に、落ち着いた淡い色の優しさが絶妙にマッチしていた。
見慣れたロングスカートではなくワイドパンツであることも印象的で新鮮に映る。
「めっちゃ可愛い」
「そう……ですか。よかったです。ふふっ♪」
素直な感想を伝えると、嬉しそうに笑ってくれた。
「でもまさか永遠さんの私服が見られるなんて思わなかったよ」
「せっかくの初デートなのですから、私だっておめかししますよ」
「いつものメイド服もすごく似合ってるけどね」
「そう言ってくれるのは嬉しいですし私もやっぱりもメイド服は好きですが……」
永遠さんはそっと俺の腕を取り、絡ませる。とたんに身体が密着して、デート感が増した。
「今日はずーっと、恋人ですので」
ああ、たまらない。
永遠さんの身体から温もりが、言葉から気持ちが伝わってくる。
「なんか、嬉しいな」
自然と口から漏れる。
「永遠さんがそうやって恋人を意識してくれるの」
一方通行の関係ではないことが、これでもかというくらいにわかるのだ。永遠さんの言葉や行動の全てが俺を安心に導いてくれる。
「当たり前です」
ギュッと身体が引き寄せられる。
そして、頬に柔らかく温かな感触がした。
「私は伊月さんが大好きですからね」
やはり彼女は俺を幸せにすることばかりする。
「……今の、キス?」
「今は、ここまでですけどね」
「え?」
お預けするように蠱惑して、永遠さんは俺の手を引くように歩きだす。
「初デートはまだまだこれから。始まったところなのですから」
「そっか。そうだね」
「はい♪」
ふたり身を寄せ合う。歩幅は自然と合って心地よく、微笑みが絶えない。
「初デート。初デート。ふふふっ」
「あ、もしかして今、デート誘ったときのこと思い出してない?」
くすくすと忍び笑いした永遠さんにツッコむ。
先週、俺は婚姻届を書いた直後に彼女を初めての正式なデートへ誘った。
婚約を決めた恋人同士がまさかの初デートだ。
そのチグハグさが彼女には可笑しく思えてならないらしい。
まぁ、それでも快く受け入れてもらえたのだが。
先程から初デート初デートと繰り返す彼女は、明らかにそれを意識しているようだった。
「ふふっ。ぷふふ」
「あんまり笑わないでよ。あれでも俺なりに真剣だったんだから」
「わかってます。ごめんなさい。でも……やっぱり可笑しくて。ふふ」
「もぉ……」
本当は全然怒っていないが、羞恥心は煽られるので少し拗ねてみせる。
「デートに誘っていただけて、嬉しかったですよ。本当に」
すると今度はやわらかに微笑んで、まるで甘えるように俺の腕へ顔を擦り付けてきた。
「優しくて、誠実なあなただから、好き。愛しています」
それだけで、不出来な彼氏の心は綺麗さっぱり救われる。
だから最高の彼女には、お返しをするべきだろう。
「俺も好き。永遠さん愛してる」
「み、耳元で言うのはやめてください」
「だーめ」
さっと身を引いて逃げようとした彼女を、今度は俺が抱くようにして包み込む。そして弱点の耳元へ何度も好きを囁いた。
言葉で伝え続けること。行動で現し続けること。
それが永く続く関係性の秘訣であると、俺は思う。
「う、うぅ……〜〜。そんなにしたら、もうデートどころじゃなくなっちゃいますよぉ……」
それも悪くない——むしろ非常に魅力的だけれど、ほどほどにしておくことにした。
初デートが即ベッドの上というのは、さすがにどうかと思うから。
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