第11話 夜デートへ
「ここで右。次……左っ……!」
相変わらず身体は傾いているが、素晴らしいコーナリングで
「甲羅きましたっ。ここは自分の甲羅を後ろに付けて……相殺っ」
種類豊富なアイテムの使い方も少しずつ覚えてきて、スムーズなレース展開を生み出すことができている。
そして——
「ゴールっ! やった! やりました1位です! 伊月さん!」
永遠さんはついに先頭でゴールした。
真剣だった表情が一気に弾けて、笑顔が浮かぶ。それから興奮したようすで嬉しそうに両手をバンザイしてはしゃいだ。
「おお! 永遠さんすごい! やったね!」
「はい、やりました♪」
ハイタッチを求めると快く応じてくれて、2人で喜びを分かち合う。
「あっ」
しばらくするとようやく興奮の熱が冷めたようで、永遠さんは窓の外へ目をやりハッと気づく。
「あ、あの……今、何時ですか?」
「えっと……19時過ぎかな」
「も、もうそんな時間!? はやく晩御飯の準備をしないといけません!」
「ははっ、本当に夢中になってたんだね」
「申し訳ありません。私としたことが……メイドとしてあるまじき行いです。ゲームにうつつを抜かすなんて……」
永遠さんは丁寧に頭を下げてしまう。
ゲームの熱はもうどこへやら。メイドさんモードだ。
「いいよいいよ。楽しんでくれたならそれで」
そんな彼女に俺は優しく笑いかける。
「提案なんだけど今日は外に食べに行かない?」
「お、お外に……ですか?」
永遠さんは銀髪を揺らして怪訝そうに首を傾げた。
「ですがご飯の準備はメイドの仕事で……」
「今日のメイドさんはもうお休み」
「そ、そんな……」
ひどく落胆したようすの永遠さんに俺はもう一度笑いかけて、その手を取る。
「もちろん永遠さんの料理が1番美味しいけど、でもたまには永遠さんにもゆっくりしてほしいからさ」
今日の午後、ゲームではしゃぐ彼女を見て思った。メイドさんにも気を楽にして遊び、休憩する時間が必要なのだと。
「俺のわがままだけど……ダメかな」
「……わかりました。そういうことなら、お供いたします」
永遠さんは渋々ながらゆっくりとお辞儀して応えてくれる。
むりやり言わせたようで申し訳ないが、これも彼女のことを想ってのことだった。
そういうことで話は決まり、外出の準備を始める。
メイドはお休みと言ったのに、着替えの手伝いや俺の身支度を整えたりするのはもはや彼女のライフワークだった。
「永遠さん永遠さん」
「なんでしょう?」
「俺が大学に行っている間、またゲームしててもいいからね」
「そ、それはできません。今日みたいにメイドのお仕事を疎かにするわけにはいきませんから」
「ということは、ゲームをやりたくないわけじゃないんだね」
逆説的にいえばゲームをすると仕事が手に付かなくなってしまうほど楽しいということなのだから。
仕事量も元々そんなに多くないわけだし、暇な時間はゲームするくらいで良いだろう。
「うっ……それはそうですが……」
「よし、じゃあ決まり。ゲームは永遠さんの仕事のひとつとします。そして上手くなって、休日は対戦で俺を楽しませてよ」
メイドの仕事のひとつとなれば、永遠さんは断れまい。
彼女は仕方なくという体ではあるものの、どこかウズウズと嬉しそうに頷いた。
「なんだかさっきから伊月さんに丸め込まれてばかりのような気がします……」
「いいんだよそれで。俺は君のご主人様だから」
「……ふふ、そうですね。ご主人様の仰せのままに」
そう言って笑った彼女と共に、夜の街へと繰り出した。
さて、お次は向かう店を考えなければならないのだが……。
レストランや定食屋、ジャンクフード、ラーメン屋など、いろいろある。
「永遠さんってお酒飲める?」
「ふだんはあまり嗜みませんが、少しなら」
「飲むの好き?」
「どちらかと言えば、そうですね」
それなら、あそこにしようか。
目的地を決める。
そして、永遠さんの方へと手を差し出した。
「……? 伊月さん?」
「あーいや、その……」
少々気恥ずかしくて頰をかく。
「手、繋がない? 夜は何かと危ないしさ」
「でも、私はメイド…………ではないのでした」
永遠さんは頷いて、細い指を絡ませてくれる。
「夜デートですね、伊月さん」
妖しく可愛く、誘うように微笑んだ。
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