第9話 意外な一面
「今日もお疲れ様です、伊月さん」
夜の行為後、しばしのピロートーク。
隣に寝転ぶ
「ふふ、もっともっと甘えていいんですからね」
「永遠さん……」
「私はあなたのためならどこまでもご奉仕致します」
それは永遠さんの持つ、大人の余裕。
俺の心を心地よく解かし、癒してくれる。
しかしそればかりでいいのだろうかと、時折思う。
たしかに永遠さんは俺より年上の成熟した女性で、俺は年下の大人になりきれない大学生であるけれど。
もう少しでいいから彼女に頼られてみたい。恥ずかしがってるところや、もっともっと可愛らしいところが見てみたい。
完璧なメイドとして振る舞う彼女の素の表情を見てみたいとか、思ってしまうのだ。
「どこか浮かないお顔ですね。もしかして、エッチにご満足いただけませんでしたか……?」
「い、いいや、なんでもないよ。大満足」
誤魔化して答える。
そうして夜は更けていくのだが——
「きゃぁぁぁぁああああああ!?!?!?」
休日の昼間。
ふだんの落ち着きなどカケラもない永遠さんの悲鳴を聞いて、俺は飛び上がる。
「永遠さんどうかした!?」
慌てて、目と鼻の先のキッチンへと迫る。
永遠さんは昼食の準備をしてくれていたはず——!!
「永遠さん!」
するとそこには、頼りなく腰を抜かしてへたり込んでいる永遠さんの姿があった。
「い、伊月さん……! た、たすけて……!」
駆け寄って膝を折ると、泣きついてくる。
この部屋に住むようになってから彼女のこんなにも冷静さを失った姿を見るのは初めてだ。
「何があったんだ!?」
見たところキッチンに異常は見られないのだが……
「あ、あそこ……」
「え?」
永遠さんはぷるぷると震える手でキッチンの壁を指さす。
「く、クモが…………」
「蜘蛛……?」
指差された先には、小さな小さな蜘蛛が一匹蠢いていた。
「蜘蛛がどうかした?」
あまり新しい建物でもないし、虫が出るのなんて俺にとっては日常茶飯事である。
季節的に、今は少なくなったが。
「わ、私……クモ……というか虫全般が苦手なのです……こわい……」
なるほど。
永遠さんがあんなに小さな蜘蛛を怖がると言うのがあまり結び付かなくて、理解が遅れた。
彼女だってか弱い女の子。
たとえメイドだろうと大人だろうと虫が苦手でもなんらおかしくはない。
「わかった。俺に任せて」
「お、お願いします……!」
永遠さんに一旦離れてもらうと、俺はティッシュを数枚手に取る。
「えい」
そしてクモを捕まえると、玄関から外へ逃した。
「よし、これでもう大丈夫だよ。永遠さん——っっ!?」
「——伊月さんっ」
永遠さんが再び抱きついてくる。銀色の髪が振りまく甘い香りと、肉づきのよい身体の豊かな柔らかさに襲われた。
「怖かったです……」
「そ、そっか……そんなに苦手だったんだね」
「はい……」
まるで幼子のようなそのようすに、俺は場違いにもグッと来てしまう。
思わず抱きしめ返して、頭を撫でる。
「安心して。もう蜘蛛はいないから」
「はい……はい……」
「これからも、もし虫が出たらすぐに俺を呼んでよ。すぐ助けるからさ」
「あ、ありがとうございます、伊月さん」
永遠さんは強く頷いてくれた。
「…………っ」
頭を撫で続けてしばらく経つと、ふいに永遠さんがビクッと震える。
そしてバタバタと身体を暴れさせて、俺の手を逃れた。
「っ、こほん」
乱れたメイド服を整えて、わざとらしく咳払いする。
その顔は珍しく火が出るように真っ赤で、羞恥に染まっているようだった。
「も、申し訳ありません。お恥ずかしいところをお見せしました」
「ぜんぜんいいよ」
「いえ、メイドとしてあるまじき姿です。反省します」
「大丈夫だって。永遠さんの可愛いところが見れて俺も嬉しかったし」
思わず本心からの言葉が漏れてしまう。
「なっ、か、可愛い、ですか!?」
「うん、可愛かったよ」
「可愛くなんてありません。あんな姿」
「いやいや可愛かったって」
「可愛くありませんっ」
永遠さんは’可愛い’が好きだと認識していたのだが、先ほどの件は彼女の思う可愛いと違うらしい。
永遠さんはさらに頬を染めて、いっぱいいっぱいなようすで俺に詰め寄ってくる。
「あんなのはただただ恥ずかしいだけなのです……可愛くありません……! だから忘れてください。忘れてください……っ」
ポカポカと俺の胸を力無く叩いてくる。
「ええ〜? どうしようかなぁ〜?」
「もぉ……伊月さぁん…………」
そんな彼女が可愛すぎて、少しイジワルしたくなってしまう。
完璧なメイドさんの意外な一面が見れて、本当に嬉しいひとときだった。
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ラブコメ日間1位、週間1位いただきました!
本当にありがとうございます!
これからもメイドさんとの甘エロな日々をよろしくお願いします!
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