第6話 メイドさんの料理
「伊月さんは私にセクシーな下着を着せたいのですね」
「ぐっ…………」
日用品と食材などを買った帰り道。
相変わらずのメイド服姿で
周囲の注目などはお構いなし。おそらく彼女にとっては日常なのだろう。
「い、いや……俺は何も言ってなかったはずだけど……!?」
「ちゃーんと視線が教えてくれましたよ」
一緒に入らされたランジェリーショップ。
俺にとっては初めての経験で緊張から固まっていたのだが、もちろん興味がないわけではない。
永遠さんの下着を買いに来たとなればやっぱり、陳列されている物を見てどれが似合うかなとか考えてしまう。
その思考を読まれてしまったらしい。
「元彼女さんはそういう下着を着てくれなかったのですか?」
「そ、それは……まぁ」
下着に関して口出ししたことすらない。
「でしたら、これからは私が伊月さんのエッチな欲望を満たして差し上げますね♡」
永遠さんはそっと俺の耳元へ囁く。
「今晩も、お楽しみに♡」
「……っ」
想像して顔が沸騰するほど熱くなる。
ああ、完全に手玉に取られている……。
俺の反応は童貞さながらだ。
どうにもこのメイドさんには敵いそうにない。
部屋に帰ってくると、永遠さんはすぐさま夕飯の準備を始めた。
「〜♪」
やはり料理は好きなようで、心なしか楽しそうに鼻歌を歌っている。
キッチンは激狭だし、調理器具や食器もあまりないのが申し訳ない。
しばらくして、いい香りが漂ってきた。
永遠さんは鍋の中身をお玉で少し掬って小皿へ移すと、一口だけ舐めるように味見する。そして満足そうにうんと頷く。
そんな一挙手一投足も洗練されていて無駄がなく、それでいてどこか色っぽい。
「さぁ、できましたよ」
永遠さんは鍋をこちらへ持ってきて、それから平たいお皿に盛り付けてくれる。
「クリームシチューです。どうぞ召し上がれ」
「おお……! 美味しそう!」
野菜たっぷりで熱々の湯気を放つクリームシチューに感激する。寒くなってきたこの季節にはバッチリのメニューだ。
シチューの隣には買ってきたバゲットも添えられた。
「いただきます」
さっそくシチューをスプーンで掬って口へ運ぶ。
濃厚な味わいと温かさが口内に広がっていく。市販のルーで作ったものとはまるで違う、上品な味がした。
俺が作ったうどんなどとは、比べるのも烏滸がましい。
これから毎日このレベルの料理が食べられるのか……?
それは幸せすぎなんじゃないだろうか。
「美味いよ、永遠さん。今まで食べたクリームシチューの中でダントツ美味い」
「それはよかったです」
永遠さんは側に控えたまま呟いてお辞儀する。
「永遠さんも一緒に食べよう」
「それはできません。私はメイドですので」
首を振って断られてしまう。
昨日は一緒に食べてくれたけど……今日はもう完全にメイドモードということか。
「一緒に食べた方が美味しいって。ほらほら」
テーブルの向かいへ座るように促す。
「……いいのですか?」
「もちろん。この家にいる以上はメイドであろうと一緒に食べてもらうよ」
「……そうですか。では、失礼して」
永遠は渋々と言ったようすで座る。それでも少し戸惑っていたようなので、今度は俺がシチューを盛ってあげる。
すると小さくいただきますをして、食べ始めてくれた。シチューを飲んで、ホッと温かな息を吐く。
「やっぱり、私の作る料理は美味しいですね」
「おお、自信家」
「そうでなければ、伊月さんに披露など致しません」
ふふっと得意そうに笑う。
「でも、伊月さんが一緒に食べてくれるから……もっともっと美味しいのだと思います」
「そ、そっか」
改まって言われると少し照れてしまう。
「ええ、自分で作った料理をこんなに美味しく感じるのは、初めてです……♪」
冗談めかしたお茶目さの中に純粋で殊勝な表情が入り混じる。
そんな瞬間が、堪らなく可愛い。
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