第5話 あなたの好みに
「おお……」
部屋に入ってすぐ、その変化に気づいて驚きが漏れる。
「永遠さん、掃除してくれたんだ」
部屋は隅から隅まで埃ひとつなく綺麗になっていた。
俺がやってもこうはならない。
これがメイドさんのスキルということか。
「それがメイドの務めですから」
恭しくお辞儀する姿見は、ジャージ姿だった昨日と違って、完璧なメイドさんだ。
彼女が正真正銘のメイドであることを改めて思い知る。
メイド服はこの上なく似合っていて、その美しさも際立って見えた。
(本当に、綺麗な人だな……)
さらさらの銀髪は言わずもがな。雪のように白い肌は吸い付く柔らかさ。大きな瞳は爛漫と煌めく水晶のよう。
スタイルも素晴らしく、揺れる大きな胸にキュッと引き締まったくびれ、安産型のグラマラスなお尻、ムチムチの太もも。総じて、色っぽい大人の女性の魅力を感じる。
昨日は色々と心が鈍感になってしまっていたけれど、今になってそれを認識すると鼓動が加速を始めた。
同じ部屋にいるだけでもびっくりだ。
このふつう極まりない男子大学生の部屋で、美人メイドさんはあまりにも浮いていた。
「伊月さん、こちらはどうしましょう」
そう言って差し出してきた袋には見覚えのある品々が収められていた。
「元彼女さんの私物と思われる物をここにまとめておきました。ご確認を」
中身を検める。
もう2度と使う機会のないものばかり。
さすがに胸が締め付けられる。
「ありがとう。俺が預かっておくよ」
貴重な物があるわけでもないし処分してしまっても良いような気がするが、あまり褒められたことではない。
そのうち彼女の部屋の前にでも置いてこよう。
それで本当に、ぜんぶ終わりだ。
「それでは、これからどうしますか? ご飯にもお風呂にもエッチにもまだ早いですね」
「そ、そうだね……」
ナチュラルに混ぜ込まれた単語に内心慄きつつ考える。
「買い物に行こうか」
「それは私もご一緒してよろしいのでしょうか?」
「もちろん。ていうか、永遠さんがいないと意味ないよ」
「……それはどういう意味でしょう?」
こてんと可愛らしく首を傾げる。、
「永遠さんの私物を買わないとだから」
「なるほど。たしかにそうですね。下着が一着しかないのはさすがに困りものだと思っていたのです」
「いや、下着とは誰も言ってないし。他にも色々あると思うよ……」
まぁ、最優先で購入すべきものではあるのだろうけれど……。
「そうと決まればすぐ行こうか」
早くしないと日も落ちる。
俺はコホンと咳払いして話を進めた。
「ありがとうございます。気を遣っていただいて」
「べつに当たり前のことだよ」
仮にもここで一緒に住むなら、必須だからするだけだ。
しかしこの部屋は2人で住むにはあまりに狭いなぁ。それはどうしようもない。
「では、この部屋に私の色を加えさせていただくとしましょうか」
元彼女の色が消えて、新しい風が舞い込む。
出会って、別れて、また出会って、人は生きてゆくのだろう。
永遠さんは俺を見てくすりと笑う。
「下着を選んでもらえますか? 伊月さんの好みに私自身も染まりましょう」
「そ、それはちょっと……」
スッと細い手が伸びてくる。あっというまに両手が優しく包み込まれてしまった。
距離が近づいて、またドキドキ。
精巧に整った素顔が目の前に。瞳が瞬く。
大人の女性の甘く誘惑的な香りが鼻腔を抜ける。
「あなたの好みが知りたいのです。だから、お願いしますね、伊月さん♡」
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