第3話 夜のご奉仕
「
待っている間に簡単なうどんスープを作っておいた。あとは麺を茹でるだけ。
「では、ありがたく」
頷いてくれたのでキッチンへ移って準備をする。
「はい、どうぞ」
丼にうどんを盛って、小さなテーブルへ置いた。
ちゃっかり自分の分も用意した。
俺にとっては夜食だが、酒を飲んだ後だし〆にはちょうどいい。
「いただきます」
真向かいにピンと背筋を伸ばして正座する永遠さんは丁寧に両手を合わせた。
それから右手で箸を持って熱々のうどんを一本だけ掴み、左手のレンゲに乗せる。湯気を纏う麺をフーフーしたのち、ゆっくりと啜った。
「美味しい」
小さく喉を鳴らして飲み込むと、ほわっと温かな吐息を漏らしながら頬を緩めて呟く。
その所作のひとつひとつはとても上品なのにどこか色っぽくて、見惚れてしまう。
「メイドさん的には拙い料理じゃない?」
「たしかに手間をかけた料理ではありませんが、それと美味しさはイコールではありませんから」
「そういうものかな」
「メイド的にはむしろ、人に作ってもらうこと自体が珍しいのでそれだけでも、嬉しいことですよ。美味しさ倍マシです」
そう言って、永遠さんは美味しそうにうどんを一本啜る。
「ですが私はお料理を人に召し上がっていただくのも好きなので。今度お作りしますね」
「それは楽しみだな」
今度があるのだろうかと疑問を抱くが、無粋かと思ってスルーする。
雑談を交わしつつ、うどんを胃に納めた。
「そろそろ寝ようか」
かなり遅い時間だ。
永遠さんは疲れているだろうし、休んだ方がいい。
「じゃあ俺は玄関の方で適当に横になるから、永遠さんはベッド使って」
毛布を1枚だけ頂いて背を向ける。
「……? 待ってください。何を言っているのですか?」
しかし手を取って引き止められた。
「一緒に寝ればよいではないですか」
「いやいやいや……」
数時間前に出会った男女でそれはさすがにないだろう。子どもでもあるまいに。
「私はべつに構いませんよ」
永遠さんは決意の固そうな瞳で俺を見つめる。手を握るチカラが強くなった。
「言葉だけでなく、ちゃんと行動の伴ったお礼をしなければなりませんしね」
「へ?」
「わかりませんか?」
うっとりと微笑む。
「ご奉仕いたします」
「……っ」
それは男を誘う、魔性の笑み。
「夜のお相手、務めさせてください♡」
気づいたときには、俺はベッド上。
ジャージのチャックを外して、艶かしく肌を露出させた永遠さんが覆い被さる。
「では、始めますね」
ゆっくりと服が脱がされる。
俺はされるがままになっていた。
だってさ、こんな棚ぼた展開断るわけあるか?
この機を逃したら、これほどの美人と夜を共にできる機会なんて2度と来ないかもしれない。
——大好きだよ、伊月。
「…………っ」
脳裏を駆け巡る過去の記憶。
「あの、ごめんやっぱり俺……」
「どうして?」
「俺には彼女が……」
「もういないのでしょう?」
「そ、それは……っ」
そうだった。
何言ってるんだ、俺。
色々なことがありすぎて頭の整理がついていない。もしくは意識的な逃避。
——他の男とセッ○スしちゃった。
こっちが、俺の現実。
それを見つめ直せ。認めろ。
愛を囁いてくれた過去など、もはや全てが嘘っぱち。
じゅくじゅくと胸の奥深くが膿んでいく。
「あれ……?」
頬を何かが伝う。
涙?
どうして。
別れを口にした時も、酔っ払っていた時も、瞳は枯れていたのに。
今更になって、涙が止まらない。
「大丈夫。大丈夫ですよ」
「永遠さん?」
永遠さんが俺の頭を抱え上げるようにして抱きしめてくれる。
柔らかくて大きな胸に包まれた。ミルクみたいな甘い香りでクラクラする。
「私がすべて、忘れさせてあげます」
優しい声が心に沁みゆく。
「そしてその責任を、私は取りましょう」
「え……?」
上目遣いに盗み見た永遠さんは、慈愛のある笑みを浮かべていた。
「私を必要としてくれるあなたに、私は尽くします」
ああ、助けが必要だったのは彼女じゃなくて、俺だったのかな……。
その瞳に宿る仄かな陰からは目を逸らした。
この夜……
「どうぞ私で気持ちよくなってくださいませ♡」
俺は、たった1人だけと決めた彼女以外の女性と——セッ○スした。
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