第78話 ナーバル地方

 ナーバル村に帰った僕たちを待ち受けていたのはダブ村の尊重を除く四つの村の村長さんたちの集まりだった。


 どうやら僕たちが留守の間に村の会議を開いていたようだ。


 僕たちの姿を見るとすぐに全員が立ち上がり、口々に感謝の言葉を伝えてくる。

 中には涙を流している人もいてちょっと照れくさかった。


 この会議で問題になっていたのはやはりどのような体制を作っていくのかという事だった。


「えっと、少しよろしいですか? 問題を整理してから話し合った方がいいと思うんです」


「おお、そうだな、さっそく始めよう」

 村長さんがうなずく。


「まず、現在五つの村が集合して新しい集合体を作ろうとしています」


「うん、その通りだね」


「はい、で、まずは異論もあるかもしれませんがこの地方の呼び名をナーバル地方とします。あくまでも仮です、またおいおい決めていけばいいと思いますが」

 これには全員が納得したようだ。というか決定したようだ。


「問題を整理しますね。僕は皆さんの会議を聞いていないので間違っていたら教えてください」

 と前置きして、アンティーク・ノートで聞いた三つの問題を話した。


「全くその通りだ。村の文化の違いから起こる問題をどうするのかを話し合うべきだろう」


「いや、このままではナーバル村に利益や権力が集中して結局我々の生活は変わらないではないか」


「そもそも誰がどうやってナーバル地方をまとめていくんだ? 政や組織を作らなければいかんのではないか?」


「はい、そうですね。ですから僕から提案です。今回こうやって皆さんが集まってるじゃないですか、せっかくですからこれを定例会としてこの地方のことを決めていくシステムにしちゃったらどうでしょう?」


「この会議で決めるのかね?! そんな話は聞いたことがないぞ」


「ここは領主さまに相談に行くのがよいのではないか?」

「いや、水害以降、何度も陳情しているがなんの音さたもないじゃないか!」


「みんな、ちょっといいか?」

 カシャム村のダガンドス村長が声を上げる。


「ロシャの街から来た商人が話していたんだが、どうも西で聖王国に対する反乱が起こっているらしいんだ」


「なんだって?!」

「そんなばかなことが?」

「まさか?!」


「えっと、どうやらその情報は本当みたいです」


「タイチ君! 本当かね?! どうしてそんなことに?!」


「そこまではわかりませんが、皆さんも水害以降の聖王国の対応に不満があるんじゃないでしょうか? そしてそれはナーバル地方だけの問題ではなく大陸中にその問題が起こっているのではないかと」

 みんなが黙り込む。


 ダガンドス村長が口を開く。

「なあ俺たちもこのまま何もしてくれない領主様を待ってていいのか?」

「反乱なぞ起こせばどうなるかわからんのか?!」


「反乱を起こすなんてことは考えてねえよ。領主様にお伺いを立てるなんてことをやって村のみんなが飢え死にしちゃあいけねえって言ってんだ」


 またしてもみんな黙り込んでしまい、重い空気が時間とともに流れていく。

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