第77話 続アンティーク・ノート

「ご承知の通り、その聖王国貴族がこの地方の統治を放棄している状況なのです」


「放棄?」


「はい。ナーバル地方は聖王国王都からも遠く、山脈の中に位置するため交通の便も悪く」


「でもアリアさんが王都と間違えてたなんとかって都市が近くにあるんじゃ?」


「ナーバルから十日ほどの町のことでございましょうか? そちらももう聖王国の支配域とは言えぬ状況になりつつあります」

「そうなの?! いったい何が起こってるの?」


「こちらが現在タイチ様にお見せできる大陸図になります」

 ルークは大陸の約半分の地図を広げて見せてくれる。


 そこにはいくつもの町があり森や山々があり、いくつかの村も大きな街もあった。

 その一つを指さし


「ここがナーバル地方になります」


「うん、この辺りに今僕たちはいるんだね」


「はい。そしてこの地図の端になりますが、この辺りでは現在聖王国に対する反乱が勃発しております」


「反乱?!」


「はい、そしてその火種は大きく広がりを見せると予想されます」


「そうなんだ。じゃあナーバル地方もそれに巻き込まれていくって予想されるんだね」


「左様でございます」

「それなら早めに手を打たないと大変なことになるね」

「はい。ですので早々にナーバル地方の安定、強化を行う必要がございます」

「うん、そうだね。できれば反乱とか国がとか関わりたくないんだけどねえ」

「タイチ様。この反乱は最初の火種に過ぎません。そしてこの火種は大きくなりこそすれ、小さくなっていくことは非常に困難かと」

「そうなんだ。大変な時代に来ちゃったな。アリアさんやナーバル地方のみんなが安心して暮らせるようにしないとだね」


「さすがタイチ様。お分かりでいらっしゃいますな」

「で、僕は何をすればいいんだろう?」


「さしあたり、先ほどの三つの問題を解決するための本を準備されるのがよろしいかと」


「うん、そうだね。じゃあお願いできる?」


「承知いたしました、少々お待ちくださいませ」


 しばらくするとルークが戻ってくる。

 手には本を持っていた。

 その本の背表紙は金色で書かれている文字は読めない。

 ルークに聞くと文化、政治、経済、軍事、生活習慣などあらゆる知識が網羅されているらしい。


「政治とかよくわかんないんだけど」

「そうですな、あまり深く考えず、タイチ様が良いと思われた方法をご提案なさるのがよろしいでしょう」

「うん、そうだね、ありがとうルーク。じゃあ速読で読み込んでみるね」



「はい、よろしくお願いいたします」

 僕はその金色の本をテーブルに置くと、椅子に座って速読を始めた。

 五冊ほど読んだところで、ルークから声がかかる。


「タイチ様、そろそろ休憩になさいませんか?」

「え? もうそんな時間なの。大変、戻らなや! んじゃあありがとう、また来るね!」


 慌てて立ち上がる僕にルークが微笑む。

 僕も笑顔を返しながら扉を開ける。

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