第75話 疫病フェイデッドモート

 村の周りに今回作成した薬を散布していく。

 そして、村の中央にある広場に戻ってくると、アリアさんがお椀に入ったスープを配っているところだった。


 アリアさんが僕のほうを見て微笑んでいる。


 その後、同じように村中に薬を撒いて回った。


 やはり村人は皆病気に冒されているようで、最初はうめいたり苦しんだりしていたが、薬を飲ませると、安らかな表情になり、穏やかな寝息を立て始めた。


 みんなが薬を配り終え、食事場所に戻って来た。


「あのお、女神様」

「? えっ? 私のことですか?」


「ああ、女神様。我らをお救いくださり本当にありがとうございました」

 ひとりの老婆がアリアさんに向かって拝み始めた。


「あ、いえ、私は」


「どうか私たちをお導き下さい」

 そう言って他の人々もアリアさんに祈り始めた。


「あ、あの、私」

 アリアさんは困惑しているようだ。

 きっとこういう経験は初めてなのだろう。


「皆さんをお救いくださったのはこちらのタイチ様です!」

 ええ? いいよ、なんだかアリアさんの方が格好がつくじゃん?


「おお、あなた様が!!」

 そう言ってさらに深く頭を下げた。

 そんな一幕もありながら、徐々にダブ村は平静を取り戻していった。


 三日後。


「もう大丈夫そうですね」

「はい、タイチ様」

 アリアさんは笑顔で答えてくれた。


「そういえば、タイチさん」


「ん?」


「この村ではなぜ疫病が蔓延したんでしょう?」

 確かにそれは不思議だ。


「うーん、村の人たちも徐々に元気になってきていますし、そろそろ聞き込みも開始したいですね」


「では私とロイはそちらに回らせてもらおう」


「ああ。そうさせてもらおう」

 キメナさんとロイさんに聞き込みを任せ、僕はアリアさんとシャーリーとともに、重傷者のケアを行っていた。


 聞き込みを終えた二人からの報告では、どうやら疫病フェイデッドモートの最初の発症者は村長だったらしい。すでに村長一家は亡くなり、詳しい話を聞くことはできなかったが、村の人たちが言うには水害後、立ち行かなくなり、村を捨てて皆で他の土地を探すしかないという話にまでなっていたそうだ。ところが、ある日村長がもう村を離れる必要はない、解決に向かうと言って喜んでいたそうだ。それからしばらくすると、村長の様子がおかしくなり、どんどん痩せ細っていった。そして、とうとう倒れてしまった。すると今度は村長の家族や村人が次々に体調を崩し始め、ついには村全体で疫病が流行る事態になってしまったという。


「なんで村を捨てなくていいなんて言ったのでしょうか?」

「わからない。でも、何か事情があったのかもしれぬな」

「まあ、とりあえずはこれで一件落着ということでいいんじゃねえか?」

「村長さんに誰か会いに来た人がいるってことですよね?」

「はい?」

「だって状況が変わる見通しが立ったってことですよね? 誰かが来て村の状況を改善してやるって言われないとそうならないでしょ?」


「うーん、そうかも知れませんが、わからないですよね」

「うん。そうだね、まあ想像だけど。もう一度村長さんの家を調べようか」

 我々は三日間、元村長の家を借りて寝泊まりしていた。


「しかしタイチ殿、我々はそこに泊まっているのだぞ? 特に変わった物などなかったようだが?」


「ええ、そうなんですけどね。なんだか気になります」

「あるじ! あのはっぱを探すのでなければ手伝うぞ! あ、います」


「ありがとう、シャーリー。じゃあアンティーク・ノートに行ってくるね」

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