第74話 ダブ村

 材料を揃え拠点に戻ると、ちょうど同じ時間に騎士団が泥だらけで帰ってきた。


「キメナさん、どうでした?」

「ああ、タイチ。そちらも今帰りか。なんとかなったぞ。しかしあの地図はすごいな。あの地図だけで戦争の仕方が変わるぞ」


「ええ、そうみたいですね。ですからどこにも出しませんよ」

「ふむ。まあそれは主がきめることであるな。私からとやかく言う事ではない。さて、こちらがエーテル水晶だ」


「おお! これがそうなんですか! 凄い輝きですね」

「これを使って疫病の治療薬を作るのだろう?」

「ええ、これで材料は揃いました。あとは作るだけですね」

「そうか。ところで、他の素材はどこで手に入れたのだ?」

「ああ、それは」

 僕はここまでの経緯をキメナさんに話した。


「さて、それじゃあみんな、まずこの薬を先に飲んでおいて。いいかな? じゃあ疫病フェイデッドモート退治に向かいましょう!」


「はい! がんばります!」

「おう! 任せろ!」

「が、がんばる!」

「よし、行くか!」

 こうして僕たちはついに疫病の巣くうダブ村へと足を踏み入れたのだった。



 今回僕たちは少数精鋭でダブ村の入口までやってきた。

 薬があるとはいえどのような状況かわからない。


 村の入口は閑散としていた。もともとは見張りが立っていたであろう門にも誰もおらず、そのまま中に入ることができた。

 村の中も静まり返っており人の気配がまったくしない。

 その様子はまるでゴーストタウンのようであった。

 僕らはゆっくりと村の中心に向かって歩いていく。

 すると前方に大きな建物が見えてきた。おそらくあれが村長の家なのだろう。

 村の中はなにかが腐った匂いで溢れ、どこからかうめき声のようなものも聞こえてくる。


「アリアさん、すぐに薬を投与して! ロイさん、キメナさん。薬を持ってそれぞれ家を回ってください。できる限り救いたい!」


「はい、タイチ様。わかりました」

「了解だぜ!」

「承知した! 主殿」

 それぞれが返事をし、薬を片手に駆け出していく。


「アリアさんはここで待機していてくれ。何かあったらすぐ知らせて。持ってきた食材で食べられる人には食べてもらおうと思います。何か作っておいてください」

「わかりました。スープを作っておきます」

「シャーリーはアリアさんの護衛とお手伝いね」

「わかったのだ! です」


「じゃあ僕は村の回りに薬を投与してくるね」


『アルカナ・ハーブロジー:秘術と治癒の知識』には、フェイデッドモートは、感染者自身だけでなく周囲の人々にも影響を及ぼし、感染者の周囲の生命力や魔力を徐々に吸い取り虚弱化させ、感染が広がれば、地域全体が薄暗くなり、生気や喜びが消え去ると書かれていた。

 このまま放っておけばダブ村はいずれ滅びてしまうだろう。

 だから僕は村人たちに少しでも元気になってもらいたかった。


 もちろんすべての人を救えるわけではないけれど、それでも目の前にいる人たちだけでも助けたいと僕は思った。

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