第73話 シルバーリーフ
「昔はこの辺りに群生してたんだけどな、やっぱり水害で一本も生えなくなっちまってるな」
「そうですか。どうしましょう?」
「まあ範囲を広げて探すしかねえだろうなあ」
それを聞いて僕は鉱脈地図を広げる。
そこにはいくつかの赤い点とそこから広がるように青い点が散らばっている。
しかし、この地図が書かれた時とは状況が違っているようだ。
「シャーリー、こんな感じの葉っぱを見たことないかな?」
「あー!! これ! この葉っぱは嫌なやつだ!!」
「え?」
「あるじ、この葉っぱはとても匂うのだ、です」
「え? そうなの?」
「いや、そんな話は聞いたことねえけどな?」
「におうの!! とても駄目な匂いなのだ、です!!」
「それってもしかして、魔獣にはとても嫌な臭いに感じる成分が含まれているってことでしょうか?」
「アリアさん! それだ! きっと魔獣除けになる成分が含まれているんでしょうね」
「しっかしそんな話は聞いたことねえけどなあ?」
「ロイさん、水害前を思い出してください。水害前は魔獣が村の近くまで来ることがなかったんですよね?」
「あ、ああ。そういやあそうか? で、水害のあと、シルバーリーフがなくなって魔獣も近づきやすくなったってことか」
「そういうことだと思います。じゃあシャーリー、この匂いは今もする?」
「今はあ、そんなにしないの、です」
「ってことはどこかからするんだね?」
「多分、こっちの方から、です」
「よし、行ってみよう!」
こうして僕たちは、シャーリーが指差した方向に向かって進むことになった。
そこは山肌が剥き出しになった斜面で、ところどころから水が流れ落ちている。
「あそこなのです」
「おお! すげえなあ。ホントに生えてるぞ、タイチ!」
「あそこかあ、どうやって行きます?」
「あー、そうだな。ロープで登るのは無理そうだな。滑落したら大変だし」
みんなの視線が一斉にシャーリーに向く。
「無理だぞ! 絶対に嫌だ! あの匂い!! 無理だからな!!」
するとアリアさんが前に出る。
「シャーリー」
「ひゃい!?」
「あなたはタイチさんの従者兼メイドですね」
「ひゃ、ひゃい!?」
「タイチ様が困っていることをお手伝いできない、という事なのですか?」
「い、いえ、けっしてそのようなことはにゃいにょでふけど」
「シャーリー」
「は、はい」
「主人を助けるために頑張れないような子にはなりたくないですよね?」
「はい。しょれはもう」
「では、頑張ってくれますね?」
「あー!! っわっかったのっだ!! 行けばいいのです!!」
「タイチ様のためにお願いしますね」
「ひゃ、ひゃい! 行ってきます!」
そう言うと一気に崖を駆け上りシルバーリーフを掴み持って来ることに成功する。
戻ってきたシャーリーはアリアにシルバーリーフを手渡すがアリアはもう一度とってくるように伝えた。
「ぐえええええ! も、もうこれは、いまでももうむりなのにいいぃぃぃぃ!!!」
もう一度駆け上がるシャーリー。
それを数回繰り返していく。
「お、おい、タイチ。ありゃやりすぎじゃねえのか? さすがにシャーリーがかわいそうになってきたぞ。アリアってあんなだったっけ?」
ロイさんは完全に引いている。
「事情があるんですよ、ロイさん。アリアさんが理由もなくそんなひどいことをするはずがないじゃないですか」
「お、おう。まあそうなんだろうけどよお」
結局十回ほど往復したところでようやく満足したようで、アリアさんが笑顔を向けてきた。
「終わり? 終わってもいいの? も、もう無理なのだあぁぁぁ。ウエーン!」
一気に泣き始めた。
「タイチさん、小瓶を」
「あ、ああ!! そういう!」
アリアに小瓶を渡すとシャーリーの涙を集め始める。
「ごめんさない、シャーリー。意地悪をしていたように見えたでしょう? あのね、ダブ村とこの地域を救うためにどうしてもあなたの涙が必要だったの。許してください、シャーリー」
「ん? 涙? 涙くらいあくびしたら出るのに? こんなことをして?! あるじ!!」
「う、うん。ごめんねシャーリー」
そう言って頭をなでなでする。
「ま、まあこういうご褒美が、あるなら、それはそれで、いいのだとも、おもったりも、する。でも先に言ってほしかった、です」
「うん、本当にごめんね。ありがとうシャーリー」
そう言いながらなでなでを続ける。
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