第53話 誰が義賊

「おーいタイチ、終わったかあ?」


「はい、皆さんありがとうございます。エガンさんのところが当たりみたいです」

 山賊たちはみな一様にぽかんとしてタイチたちを見ている。


「エガンさん、すみませんでした。あなた方がなぜ山賊に身をやつしているのかだいたいの事情は知っているんですけど、誰が義賊なのかわからない状況だったのでうちの仲間とちょっとお芝居をしてしまいました」

「あ、いや、え? えっと、それはどういう?」


「はい、僕のスキルであなた方のことは知っていましたから。できるだけあなた方との戦闘は避けようと思ってたんです。他の山賊の人たちを狙っていたんですよね? 僕たちじゃなくて」


「いや、そうではない。我々ももう限界でな。このままでは山賊と変わらない状況になっていた。山賊が民から奪うように我々は山賊が奪ったものを再度奪っていたにすぎん、同じだ」


「ふむ。まあ気持ちはわかりますけど、生きていかなきゃいけないですしね。難しい問題ですね。それはまあおいおい考えましょう。で、あなた方の主に会いたいんですけどどうでしょう? 義賊には義賊のルールがあるんだと思いますが、僕はこの地域を安定させたいと思ってるんです。協力願えませんか?」


「少し、みなと相談がしたい。我らのさるぐつわを外してもらえると助かるのだが」


「そうですよね。わかりました。ではアリアさん」

「はい、タイチさん」


「今から土魔法で壁を作ってもらいたいんです。山賊さんたちは逃げられないように四方を囲んでもらえばいいかな。明日の朝壁を崩せばいいので逃げられない程度に簡単なものでかまいません」

「わかりました」


 アリアは拘束されている山賊たちを囲う壁を作り始め、すぐに高さ5メートルほどの壁を作り終えた。


「アリアさん、土魔法の精度が上がってますね」

「ありがとうございます。農作業で毎日練習していますから」


 その間にタイチもエガンたち義賊のための壁を作成した。山賊用の囲いとは違い、出入口も付けて。


「さてと。エガンさん、これで皆さん大丈夫だと思います。あとで食事もお持ちしますね」


「タイチ殿、我々になぜそこまで? 先ほども話したが義賊とはいえ我らとてやっていることはそこの囲いの中の山賊と同じ。我らだけこのような扱いを受けるわけには」

「いやいや、他人の物をただ略奪するだけの山賊とは違うでしょ? そうだ、まだあなた方の主の名前を聞いてませんでしたね。教えていただけます?」


「あ、ああ。主というわけではないのだがな。我らは元々聖王国騎士団に所属していた。しかし聖王国中央部の権力争い、地方豪族の台頭、そして昨年の水害。そんな中、騎士団として中央の護衛にだけついて中央の聖王一派だけをお守りするだけでよいのかという疑問がわいてきた。団長は我らの意志を汲んでくださったのだ。あの方に罪はない。タイチ殿、これだけはわかってくれ」

「はい。だいたいの流れは理解しました。団長さんってすごい人なんでしょうね」


「ああ、その通りだ。本来、騎士団は聖王をお守りするのが使命。それを、それを」


 エガンさんは泣き崩れてしまった。

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