第30話 かっこいい村長?
避難してきた人たちの話によると、彼らの村はナーバル村から徒歩で二日ほど離れたテインセという村でやはり昨年の水害から生活は非常に苦しくなっていたらしい。そこに複数の狼魔獣が現れ、その群れを率いていたのがディレウルフ(双頭狼)だったのではないかという話だった。
「ディレウルフか、そいつは厄介だな」
「ロイさん、それってヤバいやつなんですか?」
「ああ。相当ヤバいな。普通狼の魔獣は群れを成すことが多いんだがボスを倒すことで統制を取れなくさせるんだが、ボスがディレウルフだとすると俺たちじゃ倒せねえ。倒せねえどころか全滅だ。あんたたち、よく生き延びたな」
「ああ、運がよかったのです。たまたま村に冒険者が逗留してくれていたのです。怪我をしてこの時期になっても残ってくれていたので」
「え? その冒険者さんは?」
「はい、我われを逃がすために盾になって」
「そうか。そいつは運がよかったなあ」
「いや、ロイさん。冒険者さんは死んじゃったんですよね?」
「おお、そうだな」
「そうだな? だけですか?」
「他になにか必要か?」
「いえ、僕たちの世界とはやっぱり価値感が違うんだなって改めて思っただけです。問題ありません」
「なに言ってんだ、タイチ。人も魔獣もこの世界で生きてるんだ。戦えば死ぬこともある。まあ、タイチにもわかる時が来る。あ、すまんすまん。で、魔獣の群れはそこで食い止められて助かったわけだ。しかし狼ってことは臭いでここまでたどり着きやがるな」
「申し訳ありません。生き延びるためにはこうするしかありませんでした」
「だとよ、村長。どうすんだ?」
「こら、ロイ! そんな言い方があるか! 申し訳ありません。みなさんご無事でなによりです。幸い今この村には堀と壁もでき、食料もなんとかなりそうなところですから。何も心配いりません。どうか今日はゆっくりと休んでください」
「ああ、ありがとうございます! 本当に助かります。村長、我ら一同、このご恩は一生忘れません!」
「いえいえ、困ったときはお互い様ですから。ただし、明日から、働けるものは働いていただきますし、戦えるものは戦っていただきますからね!」
「もちろんです!」
「それではよろしくお願いします。さて、タイチ君、少しいいかな?」
「はい、なんでしょう?」
「どうしよう?」
「は?」
「いや、これどうしよう?」
「村長、わりとカッコよかったですよ? さっきまで」
「いや、だってさあ。あんな感じできたらこう返すでしょ?」
「そのノリはちょっとよくわからないですけど、はあ」
「で、どうしようか? タイチ君!!」
「はぁ。わかりました。スキル使います、使いますから! 村長、近いですよ」
「頼むよ!! タイチ君!」
カッコいい人だと思ってたのになあ、村長さん。
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