第19話 アリアさんの家族

「ふぅ」

「お疲れ様でした。本当に無茶するんですから。どれだけ心配したか」

「はい、ごめんなさい、アリアさん」

 戦いの後、村長の家に戻った俺たちは休んでいた。


「しかし、タイチ君。本当に助かったよ。君のおかげで村が救われた」

「いえ、そんな。僕はただ、できることをしただけで」

「しかしそのスキルは本当にすごいな。魔法まで使えるようになるなんて」

「本当ですね。私もびっくりしました」


「でも、やっぱりまだまだですよ。あの魔法、一回使うたびにすごく疲れますし」


「そうなのかい? まあ、無理はしないでおこう。タイチ君、今日はゆっくり休んでくれ」


「いや、でも今日は田んぼを」

「タイチ。もうお前は村の一員だぞ。ここでお前のやりたいことを手伝えねえ奴は俺がぶっ飛ばしてやる」


「ロイさん」

「そうだぞ、タイチ君。それに、君はまだ子どもだ。今日はゆっくり休むこと、これは村長命令だ」


「わかりました。じゃあ、明日からまた頑張ります」


「ああ。で、今日はごちそうだぞ! タイチが討伐したオークの肉だ! 肉祭りだ! タイチも夜まで休んで参加してもらうぞ、村を救った英雄だからな」



 そして夜、村の人たちが集まってきて、宴会が始まった。

 皆、酒を飲みながら、料理を食べている。僕は未成年なのでジュースだけどね。

 それでも、楽しい時間は過ぎていった。


 良かった、と思うと同時に、少しだけ不安にもなったんだ。だって、こんなに良くしてもらっていいのかなって思うよ、空から降ってきた見知らぬ少年って怪しすぎるよね。


 元の世界に帰りたいって気持ちもあるし。

 でも、今はとりあえずこの世界を楽しんでみよう。


 そんなことを考えていると


「タイチさん。何を考えこんでいるんですか?」

「あ、アリアさん」


「ほら、食べてください。せっかくの料理ですから」

「はい」


「それで、どうですか? この村は」

「えっと、皆さん優しいです」


「そうですねぇ。私は最初、渡り人さんはもっと偉そうなのかと思っていましたが、全然違いました」

「あはは」


「安心しました。タイチさんがいい人で」

「そうでしょうか」

「ええ、もちろん。私のことも助けてくれましたし、村も救ってくれました」

「あれはスキルの力って言うかなんていうか」


「でもそのおかげです。本当にありがとうございます」

「あ、いえ、こちらこそ」

 二人で笑い合う。


 それから、アリアさんにいろいろと話を聞いた。

 アリアさんのお父さんは村長、名前はアーシュさん。

 そう言えば名前を聞いてなかったな。


 お母さんは去年の水害で他の人を助けようとして亡くなったそうだ。

 アリアさんは、村でたくさんの人が亡くなった、自分だけ悲しんでいるわけにはいかなかったと寂しそうに言っていた。


 しっかりしているな。


 家族のために頑張ろうと思ったこともあったけど、俺がいても何もできないもんな。

 でも、この世界では誰かの役に立つことができるかもしれない。


 それなら、できるだけやってみよう。


 そして、元の世界に帰る方法も探さないといけないしな。

 そんなことを思いつつ、宴の夜は更けていく。

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