バミューダトライアングルを演奏した話

あれは小学3年生のときだった。

僕の通っていた小学校では生活発表会と題して、毎週どこかのクラスが体育館で全校生徒を前にして好きな曲目を演奏をするという習わしがあった。


そして僕らのクラスに順番が回ってきたのは、残暑の続く9月中頃だったのを覚えている。

夏休みが終わって早々に曲目や担当するパートなどを決めることになり、僕はバミューダトライアングルを担当することになった。


それまではあまり目立たないピアニカやリコーダーを担当することが多かったので、「バミューダトライアングルがいいひとー。」という声かけに手を挙げたのは自分でも少し驚いた。


なぜならバミューダトライアングルはあまり良い印象を持たれていなかったからだ。

『都市伝説っぽい』

『飛行機とか船とか消えそう』

僕も含め、そういったイメージがバミューダトライアングルにはあった。

けれど、いつまでも目立たないパートばかりやっていても面白くないと感じていた僕は、思いきってバミューダトライアングル担当に名乗りをあげたのだった。


幸い他には誰も手を挙げる人がいなかったので、無事に希望するパートを受け持つことができた。


練習では何度か、突如としてピアニカが消息を絶ち、遠く離れた二十四節目で発見されるなんてハプニングもあったが、無事に本番を迎えることができた。




本番は全校生徒の前でおこなわれた。

各々が緊張する中で演奏は始まり、練習通りにいかない事もあったが何とか曲は進んでいった。

僕の演奏パートでは練習よりも力が入ってしまったが、間違えることなくバミューダトライアングルを演奏することができた。

そして周りを見渡してみたが、何事もないようだった。

消息を絶った人はいなかった。

最後まで全員が揃って演奏を終えることができたのだ。

もちろん聴いていた他のクラスの生徒も、誰も欠けることなかった。




ただ、ひとつだけ、問題があった。

確かに誰も消息を絶つことはなかったのだが、体育館を出ると、そこは見たこともない異国の地だったのだ。

残暑厳しい日本とは違い、半袖ではとても耐えられない吹雪吹き荒れるどこかだった。


そのとき、僕たちは体育館ごとバミューダしたのだとわかった。

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