マスクをして入学式を迎えたクラスメイトの話
あれは中学一年生のときの事だ。
僕の町ではふたつの小学校が合わさって、ひとつの中学校に行くことになっていた。
他の小学校から同じ中学校に通うことになる子たちはどんなだろうと、緊張と期待を胸に抱えながら入学式を迎えた。
仲の良かった友達と同じクラスになれたり、少し気になっていた子が違うクラスになったりで一喜一憂している中、一人だけ入学早々にマスクをしている子がいた。
増野といった。
入学したばかりで、みんなに顔を覚えてもらう機会なのに、マスクをしなければならないなんて気の毒だなと思った。
増野は口元と鼻、あとは目だけを出した格好で、赤と金の、派手な模様のマスクをしていた。
彼と同じ小学校から来た子に彼の事を聞くと、どうやら彼はずっとマスクをしているのだそうだ。
生まれつき体が弱いわけでもなく、むしろ体つきを見るに、中学生とは思えないくらい筋骨が隆々としていた。
マスクをしているので仕方ないのだが、会話中、たまにラリアットが出て止まらなくなる事があったが、そんな時は「少ししたら治まるので大丈夫です」と、見かけによらず周りに気を遣う性格でもあった。
そんな彼に、素顔が分からないままだったにも関わらず、クラスメイトは惹かれていった。
そんなある日、体力テストがあった。
まだ肌寒さの残る5月上旬だった。
数ヵ月前までランドセルを背負っていたとは思えない体つきの増野は、体育の授業では中学生離れした運動能力を発揮していた。
ボールを投げてはバックネットを越え、背筋測定では機械を壊してみせた。
持久力も並外れたものがあり、巨体を揺らしながらグラウンドを周回した。
いつのまにか、全校生徒は彼に釘付けだった。
汗びっしょりの上半身が太陽に照らされて輝いていた。
増野はいつでも、上半身裸でパンツしか履いていなかった。
体力テストの次の日、増野は学校に来なかった。
風邪をひいて休んだのだった。
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