気になるあの子のカタログ
あれは中学生の頃の話だ。
僕には気になる子がいた。
名前を山田さんと言った。
山田さんはいつもみんなに笑顔で接しており、男女問わず人気があった。
やはり僕にも優しい笑顔で話しかけてくれたので、いつしか僕の心の中は山田さんでいっぱいになっていたのだ。
「付き合いたい。」
そんな具体的な感情を抱いたのは夏休み前だっただろうか。
僕は、さっそく山田さんのカタログ請求をした。
放課後、教室に一人になったタイミングで、僕は前日届いた山田さんのカタログを開いた。
生まれは東京都内、公務員の父と元バスガイドの母をもつ。
顔立ちは母親譲りで端正であるため、将来的にも飽きの来ないデザインとなっている。
厳格な父の躾の元で育ったため、教養は十分備わっている。
さらにペットを飼っているので、優しさは他社と比較してもストロングポイントとなっている。
容姿、性格ともにフラッグシップモデルとして当社の人気No.1となっている。
そんな文面とともに、カタログには山田さんの幼少期からの写真が散りばめられていた。
僕はさらにページをめくった。
業界では初となる『母性』を搭載。
これにより、今までよりもさらに深い思いやりを持ち、『母性強モード』に切り替えると、ダメな男子、だらしない男子にも尽くさずにはいられないようになりました。
オプションで料理上手にもでき、日々の健康にも気をつかえるため、長期的な使用にも対応。
オプションをどうするかは別として、カタログスペックは申し分ないと思った。
僕の理想に合致しており、何不自由ないであろう内容だった。
これはお付き合いする他ない、そう思いながら何の気なしにページをめくった。
しかし、たまたま開かれたそのページには、思いがけないものが書かれていた。
「上位互換モデル近日発表!」
赤字で大々的にそう書かれていた。
僕はその色彩に面食らった。
上位互換ということは、たった今読んだ山田さんのスペックを踏襲しつつ、さらにアップグレードされたものではないのだろうか。
家柄がもっと良くなったり、より母性が強くなったりするのではないだろうか。
もしかしたら本体のスタイルがよりシャープになったり、起動するまでの時間が短くなったり、連続運転時間が長くなったりするのではないだろうか。
それならいま山田さんを選ぶよりも、少し待って上位互換を選んだ方がいいかもしれない。
その時、はたとカタログをめくる手がとまった。
視線を感じたからだ。
ゆっくりと頭を持ち上げていく。
さっきまで西日に照らされていた僕の机は、いつの間にか影で覆われていた。
そこには、山田さんが立っていた。
山田さんは僕のカタログに目を落としていた。
「上位……互換?」
その声はいつもの優しそうなものに感じたが、どこか違う色を含んでいた。
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