シートベルトを忘れた俊足の友人の話
これは中学生のときの話だ。
当日、僕は陸上部に所属しており、毎日運動場で練習をしていた。
陸上部といっても競技はいろいろあり、僕は短距離走を専門としていたのだが、同じ短距離走の選手に福本くんという友人がいた。
彼はとにかく足が速かった。
全国大会出場にも期待がかかる程速かったのだが、彼には1つ問題があった。
練習中、シートベルトをしないのだ。
あれほど速く走るのであれば、本来シートベルトをしなければいけないはずなのに、練習中1度も着用している姿を見なかった。
当然、シートベルトをしなければ危険だという話をしたが、彼は「学校の敷地内だから大丈夫。」と言って聞かなかった。
端から見れば明らかに『校庭速度』を違反していた。
もちろん、顧問の先生に注意してもらうよう話したが、そういう時に限って彼はゆっくり走っていたのだった。
大会で結果を出している手前、先生も注意しづらかったのかもしれない。
その夏の大会も福本くんには期待が寄せられていた。
僕は早々に予選敗退が決まったので彼のレースを見ていたのだが、スタート位置につく彼に違和感を感じた。
よく見ると、シートベルトをしていないのだ。
「学校の敷地内だから大丈夫。」
彼はそう言って、普段シートベルトをしていなかった。
その癖から、本番になってもシートベルトをするのをすっかり忘れていたのだ。
「福本くん!シートベルト!」
そんな僕の叫びは号砲にかき消され、福本くんは走り出した。
閃光のように飛び出した彼は、1歩目で頭1つ抜けたかと思うと、2歩目には既に周りを置き去りにしていた。
そのままぐんぐん加速する。
やがてトップスピードを迎える頃には会場の皆が彼に注目していた。
「あ、シートベルトしてない。」と。
そして皆がそう思うと同時くらいに、会場の入口から警察が入ってきた。
僕は、シートベルトをつけていない彼を取り締まりに来ていたのだと分かった。
福本くんも背中でそれを感じたのだろう。
走りを緩めるどころか、ゴールテープを切っても尚、走り続けた。
そして、会場の外に出たところで彼は捕まった。
皮肉にもその時の彼は、非公式ながら中学生ベストを記録していた。
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