メガネザルのメガネをとった話
あれは僕が中学生になった頃の話だ。
家族で動物園に行ったことがあった。
その動物園にはゾウやキリン、ライオンやサイなど、様々な魅力ある動物がいたが、僕が目を惹かれたのはメガネザルだった。
ゾウやキリンにはない愛嬌が僕を虜にしたのだ。
僕が檻の前に立つと、メガネザルはそのメガネをクイッとあげて、大きな目をパチパチと動かしながら見つめてくれた。
初対面でそんな可愛い姿を見せられた僕は、それ以降、動物園に行く度にまずメガネザルを見に行った。
むしろメガネザルを見に動物園に行っていたと言っても過言ではない。
一度、メガネザルのいない動物園に行ったことがあったが、何も心踊らなかった。
そんなある日、学校で視力検査があった。
僕は自然とメガネザルの事を考えていた。
いくらなんでもそれは動物園に行きすぎだと言われたが、そうではなかった。
視力検査のマークが、あの黒淵メガネに見えたのだ。
「0.5」
そしてそれは突然だった。
暗いところでゲームをしていたのがいけなかったのか、僕の視力は裸眼では黒板の文字が見えないくらい悪くなっていた。
次の休みの日、僕はメガネ屋へメガネを買いに行った。
自分の視力にあうメガネを探すためだった。
細かな視力検査をして、あれやこれやとメガネをかけてみたが、どうも自分に似合うものがない。
「もっと黒淵の丸いやつがいいんです、メガネザルみたいな。」
そう伝えたが、店員は動物園に行ったことがないのか、頭を悩ませるばかりだった。
次の日、僕は動物園に行った。
メガネザルの檻の前に立つと、いつものようにメガネザルが近くまで来てくれて、大きな目をパチパチと動かす。
「こんなメガネが欲しいんだよなぁ。」
ポツリと呟いたときだった。
メガネザルがおもむろに、かけていたメガネを外したのだ。
そして、それを檻越しに差し出してきたのだ。
「えっ?」
要領を得ない僕に、メガネザルは「そのメガネをかけてみろ」というジェスチャーをしてみせた。
僕は恐る恐るメガネを手に取り顔にかけてみた。
すると、今までぼやけていた視界がくっきりとした。
いつの間にかぼやけていたメガネザルの顔まではっきりと分かる。
それだけではない。
耳にかかる感じ、レンズの大きさ、どれをとっても僕の顔にピッタリだった。
「ありがとう。」
僕がそう伝えると、メガネザルは頷き、また檻の奥へと歩いていった。
改めてお礼をしようと、その次に動物園に行ったとき、メガネザルの檻の前に人だかりがあった。
何だろうと人混みをかき分けて見ると、そこにはメガネザル『だった』サルがいた。
あの、僕にメガネをくれたサルだった。
彼は、顔にマジックでメガネを書いていた。
「おーい!この前はありがとう!」
メガネをかけた僕は、彼に届くよう叫んだ。
しかし、メガネザルは振り返ったがキョロキョロするばかりだった。
メガネを外したメガネザルは、もう僕の事を認識できなくなっていた。
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