親戚の噂の話


僕には1年に2度、お盆と正月に会う親戚がいた。

母の弟にあたる、おじさん家族だった。


僕が小学生だったある年。

お盆が近づいた頃、1本の電話があった。

それはおじさん家族からで、『おじさん家族の噂が立った』ということだった。


子供心ながら、僕はワクワクした。

噂が立ったとき、おじさんはどんな顔をしたのだろう、と。


そして、お盆になり、おじさん家族が我が家にやって来た。

おじさんとおばさんに挨拶をすると、おばさんの陰から、ひょっこり噂が顔を出した。

僕は驚いた。

なぜなら、おぼつかない足取りでこちらへ近づいてきたのだ。


『噂が一人歩きしていた』。


つい数日前の電話では、やっと『噂が立った』ばかりだと言っていたのに、それからすぐに一人歩きしているとは思わなかった。


「もう噂が一人歩きしたんですね。」


そう言うと、おじさんは困った様な顔をして「そうなんだよ、あっという間だろ?近所を散歩していても、少し目を離すと、噂が勝手に歩き出すからね。」と言っていた。

でも、その目は嬉しそうでもあった。




半年前に会ったときは、まだ『噂がハイハイしていた』姿しか見なかった。

もっと言うと、1年前に会ったときは、まだ『噂が寝返りした』だけでみんな喜んでいた。

僕にもそんな小さい頃があったのかなぁ、などと思ったものだ。



その年は、『噂が後を追いかけてきた』り、『噂に抱っこをせがまれる』こともあった。

噂が立つと大変、なんて聞いたこともあったが、こうして接してみると、噂もいいな、と思った。




それから75日経った頃には噂のことなどすっかり忘れてしまった。

僕の父が転勤になり地元を離れたことをきっかけに、おじさん家族とも疎遠になってしまったのだ。

ただ、最近母から聞いた噂の噂では、噂は悪い噂になっているらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る