『河童の川流れ』を見た話


あれは小学生の頃の話だ。


ある日の通学途中、川沿いを歩いていると、その中に河童を見かけた。

河童は幅3メートルくらいの川の中央で、岩の上に腰を下ろしていた。

河童がいる川といえば、自然豊かな山の方だとばかり思っていたので、コンクリートで護岸工事された川に現れた珍しさから、しばらく観察していた。

河童はキュウリを食べていたが、しばらくするとおもむろに岩の上に立ち上がった。

そして次の瞬間、河童は足を滑らせ、ドボン、と水の中へ転げ落ちた。


「あっ!」


僕が驚きの声をあげるのもお構いなしに、河童はあっという間に流されてしまった。



その頃、ちょうど学校では、ことわざについて勉強していた。

僕は学校に着くと、『河童の川流れ』を見た事をみんなに話した。

河童が川で流される姿を見た子はきっといないだろうと、半ば自慢をするように話した。


ところが、みんなからは「嘘だ」「例え話なだけで、かっぱが流されるわけない」「きっと、かっぱのパフォーマンスだったんだろう」などと、口々に反論された。

僕は信じて欲しかったが、証拠もない。

それに僕自信、まさか河童が流されるなんて、と目の前で起きた事をにわかに信じられないでいた。

そこで、次に会ったときには真相を聞いてみようと思った。




次の日は雨だった。

カッパを着ながら、いつものように通学すると、前日と同じ川に差し掛かる。

河童はいないだろうかと見回すと、幸運なことに同じ岩の上にいた。

雨だろうが、河童には関係ない様だった。

むしろ皿に水が貯まって好都合だっただろう。


「かっぱさーん、昨日はどうして流されちゃったのー?」


そう尋ねると、河童は「あれは流されたわけじゃない。自発的に流れただけ。」と言った。

よく考えて見れば、確かに足を滑らせた感じはしたものの、流されて焦っている様子はなかった。

本当にただ流れるのを楽しんでいただけかもしれないと思った。

と言うことは、やっぱり『河童の川流れ』なんて例え話なんだと思った。


しかし次の瞬間、そこには雨に濡れた岩の上からズルリとバランスを崩す河童の姿があった。


「あっ!」


ドボン、という音とともに頭が下に、足が水面から出る。

雨の影響で濁った水に、河童の体は一気に押し流されていく。

20メートルほど流されたところで、水面から顔を出した河童は叫んだ。


「な、流されたわけ…ゴボ…じゃない!!!…ゴボ。」




その日、学校で『河童の川溺れ』を見たよ、と説明したが、やっぱり信じて貰えなかった。


その日から僕のあだ名は『嘘つきがっぱ』になった。

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