二等辺三角形が刺さった話

あれは小学生の頃の話だ。


ある日曜日の午後、僕は母と近所の公園で遊んでいた。

ブランコや鉄棒、すべり台などの遊具が一通り揃っている公園だ。

あっちへ行ったりこっちへ行ったりしているうち、すべり台を滑ったときだった。


「いてっ!」


手に何かチクッと違和感がした。

右手の人差し指に何か刺さったようだった。


「お母さーん!なんか痛いー!」


自分で見ても分からなかった僕は母にすがるように助けを求めた。

すると、母は僕の指先を見て「二等辺三角形が刺さっているね。」と言った。


母に「ほら、ここ。」と言われ、じっと観察すると、確かに人差し指の腹に何かの図形の底辺らしきものが見えた。


指に刺さっているのに、なぜ二等辺三角形だと分かったのか母に尋ねると、「底辺をはさむ2つの角が等しいからよ。」と教えてくれた。

言うとおり2つの角には『75°』と書かれていた。


母はそれから、ポーチの中にある図形抜きを取り出して、底辺をつまむと、クイッとそれを引き抜いた。

抜いた先端は鋭角で『30°』と書かれており、それが二等辺三角形であることを証明していた。


「すべり台がささくれていたのね。」


そう言いながらすべり台を触って観察する母は、おもむろに僕に聞いてきた。


「さて、このすべり台。地面と階段、そして滑り面で構成された三角形の名前は何でしょうか。」


唐突に始まった算数の問題に、僕はぷっくりと血の滲む指先を見つめていた。

貧血を起こしたからなのか、唐突な算数の問題を出されたからなのか、めまいがした。



後日、算数のテストがあったのだが、図形の面積を求める問題で、二等辺三角形の底辺に『つままれた様な跡』があった。

あれは指から抜き取られた二等辺三角形に違いない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る