25歳でおしゃぶりがとれた話

僕は普通よりも「おしゃぶり」がとれたのが遅かった。

『普通』というのは語弊があるかもしれないが、これには個人差があるらしい。


その日までは、仕事から帰るとすぐにおしゃぶりをつけていた。

帰ってすぐにおしゃぶりを吸うのもどうかと思ったが、仕事中我慢していた反動もあり、一度吸い始めると晩御飯そっちのけで吸い続けた。

人が見ればある種の中毒に見えるのかもしれない。

けれど、おしゃぶりを吸っている間はストレスから開放され、何物にも代えがたい安心感が得られた。


特に寝るときはおしゃぶりが欠かせなかった。

安眠には不可欠で、もし仮におしゃぶりを失くしてしまったら、心の平静を保てず、寝付けないどころか一晩中泣くことだろう。


ちなみに、仕事では営業であちこちの企業に出向くので、人と会話するためにおしゃぶりは吸っていない。

会話せずに済む仕事だったら、きっとおしゃぶりを吸っていたに違いない。




そんなある日、おしゃぶりがとれる転機があった。

職場の仲間と飲み会があり、自宅には帰らず直接居酒屋に行かなければならない状況になった。

僕は1度家に帰っておしゃぶりを持ってから向かいたかったが、時間的にも間に合いそうになかった。

仕方なかったので、家には帰らずに居酒屋に行った。


飲み会は盛り上がり、僕もハイペースでアルコールを入れた。

普段お酒はあまり飲まない方だが、その日は仕事の愚痴などでお酒が進み、宴もたけなわという頃にはすっかり酩酊していた。

そして気持ちよくなった僕は、そのまま机に倒れこんだ。




気づいたときには自宅にいた。

誰かが送ってくれたらしかった。


そこではっとした。


おしゃぶりを吸っていなくても寝れたではないか。

あれほど欠かせないものだと思っていたおしゃぶりがなくても寝れるようになったのだと、成長を実感した。


その成長に少し寂しさを感じていたが、今では毎日、酩酊するほどお酒を飲み、ぐっすり寝付いている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る