お肌の曲がり角を曲がった話

あれは私が上京して5年目の春のことだ。


久しぶりに故郷へ帰省することになり、高校の同級生と会うことになった。


待ち合わせは、高校生の頃に憧れていたエステサロン。

当時は背伸びした友達が行った話を聞いたことがあるだけで、自分のお小遣いでは行けなかった。

大人になった今は、東京で暮らせる程度には稼いでいる。

だから胸を張って行こうじゃないか、ということだった。


久しぶりに歩く町は私の知っているあの頃とは大きく様変わりしていた。

あったものがなくなり、なかったものができている。

特に下調べもせずに家を出た私は高校当時の記憶を頼りに歩を進めた。




ところが、いくら歩いても目的のエステサロンが見えてこない。

どうやらどこかで間違えたようだった。

私は友達に、迷って遅れる事を連絡した。


「もしもし、ごめん。久しぶりに歩いてたら迷っちゃって。少し遅れるかも。」


すると友達は思いがけない事を言った。


「ねぇ、あなた、あの角曲がった?」


何の事か聞くと、『お肌の曲がり角を曲がったのではないか』ということだった。


確かに、見慣れない交差点があったので曲がった覚えがあった。

あれが『お肌の曲がり角』だったのだ。


そういえばあの角を曲がった辺りから『しみ』や『くすみ』が増えており、高校生の時には見たことのない風景が続いていた。

そして目印にしていた『ハリ』もどこかへ行ってしまったようだった。


振り返ってみたが、既にどこが『お肌の曲がり角』だったのか分からなかった。


それでも10代の頃の記憶を頼りに『シワ』を辿っていけば到着すると思っていたが、それについても友達は「最近区画整理がされて、シワがどんどん増えているのよ。」と言った。

そうなると、通ってくる『シワ』を1本間違えた可能性もある。




結局、進むも戻るもできなくなった私は、友達に迎えに来てもらい、エステサロンまで連れていってもらった。

友達には呆れられたが、無事エステサロンで施術をしてもらい、10代とは言わないまでも、20歳くらいの肌は手に入れることができた。


ただ、帰りは来た道とは違う道で帰ったのだが、別の『お肌の曲がり角』を2回通ってしまった。


もうしばらく帰省するのはやめよう、と思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る